DOEFF vol11
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人間本来の修復力をコントロールして、傷跡をきれいに消す時代に。久保 盾貴大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座 形成外科学 教授2019年より大阪大学大学院医学系研究科 形成外科学 教授。頭頸部や乳房などの再建外科を専門とし、多くの新しい手術法を開発。そのほか、先天性体表異常、顔面・四肢外傷、下肢静脈瘤、皮膚皮下腫瘍など、形成外科のほぼすべての分野の手術を手がける。基礎研究では、皮膚創傷治癒と末梢神経再生を主なテーマとしている。人間は、けがをしたり手術を受けたりすると、よほど浅い傷でない限り、跡が残ってしまいます。人間以外の動物はほとんど残りません。直接命に関わる問題ではないので傷跡の研究は立ち遅れています。とはいえ、一命をとりとめたとしても、目につく箇所に大きな傷跡が残ってしまったら、QOLは著しく低下するでしょう。私が特に着目しているのは、皮膚が盛り上がるほどの傷跡=ケロイド。これをどうにか治せないか、と。ケロイドは、肩や胸など皮膚が伸縮するところにできやすく、人種差もあって黒人に多く白人に少ないことは分かっています。ただ、現時点で効果的な治療法はありません。人間に特有な現象のため、動物モデルを作れないのがネック。未解明な部分が多いのです。全身熱傷のような大けがの治療では、自身の細胞を培養した表皮シートが使われますが、正常皮膚と呼べるにはまだまだ遠く、小規模な機器を患部に近づけるだけでケロイドが消せる。リアルタイムで修復プロセスのデータも表示。そんな時代がやってくるだろう。ケロイドになることもあります。心臓ならハートシートが威力を発揮するのになんとも不思議です。ケロイドができる理由は、皮膚の修復後も治そうする活動が止まないこと。コラーゲンと呼ばれる線維が余計に蓄積されて、膨らんだ傷になってしまうのです。皮膚の線維芽細胞の中に不具合をもたらす要因が潜んでいるのではないか。こんな仮説の下、遺伝子レベルの解析を進めたいと考えています。現在は、放射線を当てて過剰な修復力をあえて抑える治療も登場。一定の効果は出ています。2050年には、たちまち傷跡が消えていくような夢の機器が登場しているといいのですが。私の研究室のモットーは「エステティック・マインド」。臨床では、ほかの外科とコラボレートして、さまざまな部位の再建手術を数多く担当しています。ただ移植して傷口を塞ぐだけでなく、「見た目」も重視する。形成外科の意義はここにあるのです。08Tateki Kubo2050年にはこうなってる?QOL向上のためには、QOL向上のためには、「美しさ」も大切。「美しさ」も大切。

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