免疫の力を活かして、血液がんの完全克服を。保仙 直毅細胞治療が標準化。細胞が薬剤のように専用ボトルに入れられて常時ストックされる。患者に点滴するだけでがん治療が可能に。2020年より大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 教授。造血幹細胞移植など血液内科の臨床で修練を積む。その後、抗体医薬や分子標的薬の登場に衝撃を受け、研究をスタート。これまで一貫して、血液がん細胞に特異的な細胞表面抗原を同定し、それを標的とした抗体療法及びCAR-T細胞療法の開発に注力している。白血病や悪性リンパ腫などの血液がんは、治療法の進化が目覚ましい分野です。私が開発に携わってきたのは、CAR-T細胞療法と呼ばれる免疫療法の一種。がんを狙い撃ちするように改造したT細胞である「CAR-T細胞」を、患者さんの体外で増殖させ、点滴で体内に戻す方法をとります。自身の細胞なのでほぼ無害なのが大きなメリット。抗がん剤や造血幹細胞移植の効果がなかった患者さんに対して、日本では2019年に保険診療がスタートし、たくさんの方が治るようになりました。しかしながら、攻撃しなくてもいい細胞も標的にしてしまう課題は依然残されています。がん細胞だけに特有で、すべての患者さんに共通する「目印」はないのか。私の研究室では、多発性骨髄腫について特定の因子を突き止め、今は治験中です。人間の体内では、T細胞のほかにも、B細胞やマクロファージといったさまざまな細胞が作用して免疫反応が生まれています。つまり、免疫力のごく一部しか治療に使えていないわけです。免疫は、働きすぎると炎症につながり、逆に病気を招いてしまうから、うまく制御しなければなりません。まだまだ分からないことは山積みです。CAR-T細胞がうまくいったのは、炎症を引き起こすサイトカインの一種IL-6をブロックすることに成功したから。IL-6阻害薬はリウマチのお薬としてすでに出回っていました。開発者は阪大の岸本忠三先生。私は先生の研究室の出身ですから感慨深いですね。他人の細胞由来のCAR-NK細胞による治療も世界的に進んでいます。本来は捨てるはずだった1人分の臍帯血から100人分を生成できるようになれば、コストは激減しますし、献血や輸血の感覚に近くなるかもしれません。2050年には、細胞を薬として使うのが当たり前になっているといい。血液がんの完全克服までもう少しです。大阪大学大学院医学系研究科内科学講座 血液・腫瘍内科学 教授DOEFF Vol. 1109Naoki Hosen2050年にはこうなってる?点滴で、点滴で、がんを狙い撃ち。がんを狙い撃ち。
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