患者自らデータを管理して、最適な医療を受けられる。社会問題となっている画像診断レポートの見落とし防止にも役立てることができます。それとは別に、臨床診断支援システムといったものも構想しています。わかりやすくというと「逆引きの辞書」。診断は、未だに医師の経験と勘に頼る部分が多くあります。そこで、症状や検査結果から予測される疾患名とその確率を高精度で導けるシステムがあればいいなと。希少疾患を見逃さないメリットも期待できます。患者さんが自身の医療情報を管理する仕組みであるPersonal Health Record(PHR)にも注目してほしいです。現在は、金融機関と共同で、PHRの一種である「医療版情報銀行」の取り組みを進めています(P18 KEYWORD NO.1「情報銀行」参照)。2019年にまず産科で開始し、阪大での電子カルテの処方箋の内容や血液検査の結果のほか、妊婦健診やエコーのデータなどを、ご本人の承諾を得て提供しました。出産にまつわる情報が個人単位で集積され、本人がいつでもアクセスできる「口座」が開設された状況です。そうすると、例えば第2子の妊娠・出産に臨むにあたり、第1子のときの状況の詳細をかかりつけ医に伝えられ、より安心・安全な医療につながります。親が子どものために口座を開設し、大きくなった子どもに渡してあげることで、子どもが出産するときに自身の出産時の情報が役に立つかもしれません。スマホを機種変更しようが転居しようが、いつでも口座の情報を確認できるのが前提です。口座を開設する際は、複数の銀行のサービス内容を比較して利用者が選べるようにします。銀行によっては、口座設置料がかかったり、預けている情報に応じて「利子」が付いたりするかもしれません。銀行間でスムーズにデータ移行できることもカギになるでしょう。「メインバンク」を途中で変えるのも、顧客の自由です。2050年には、蓄積された患者情報を活用して、個別化医療に踏み込み、個人に最適な治療や予防を提案できるといいですね。私たち大学の役割は、データ移行の標準仕様を定めるなど、各銀行をうまく橋渡しすることにあると考えています。医療情報は限りない可能性を秘めている。そう信じて、研究にまい進する日々です。2022年より大阪大学大学院医学系研究科 医療情報学 教授。もともと循環器内科を専門としていたが、医療情報の世界に足を踏み入れる。質の高い臨床データを効率的に収集する手法の開発のほか、機械学習を使った知識創出に取り組んできた。患者自ら診療データを管理するPersonal Health Recordの構築にも力を注いでいる。11Toshihiro Takeda
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