DOEFF vol11
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神経にも「かさぶた」がある。皮膚の軽い傷なら「かさぶた」ができますよね。神経細胞も、「グリア瘢痕」と呼ばれるかさぶたのようなものが、急性期には組織を修復しています。ところが、ある程度の期間が経過すると、むしろ神経細胞の再生を阻むことが報告されてきました。損傷部と正常部をきれいに分ける境界線が作られ、正常部だけで再生しようとするのです。損傷部が大きいほど、治そうとがんばりが効く部分が少なくなしかし、移植して急性期には効果があるように観察されても、メカニズムはよくわからないまま。慢性期ではほとんど効き目がありません。そんな壁に直面しつつも、神経細胞の再生を阻害するとされていたグリア瘢痕(COLUMN参照)が、実は部位の修復機能を兼ね備えていることを突き止めます。その論文で一定の評価を得ました。修了後、母校に戻ってからの挑戦。それは、若手研究者の養成強化を図る文部科学省の事業でした。4年程度の任期で研究ポストを与えられ、成果を出せば准教授などの安定的なポジションに就くことができます。逆に言えば、クビもあり得るシビアな制度。アメリカでは「テニュアトラック」と呼ばれるものです。この事業に母校のプログラムが採択され、私も学内選考の狭き門を突破して採用されました。厳しい環境ではありましたが、研究者としてここでさらに鍛えられた実感があります。大学院生の頃の問題意識をさらに深掘りし、研究に没頭。幹細胞の働きが移植された環境にどう左右されるのかを遺伝子レベルで解析しるわけですから、まひが残ってしまうと考えられています。これは哺乳類に顕著に見られる現象で、一部の両生類では脳や脊髄を損傷しても容易に再生します。天敵に襲われやすい生物は、大雑把でもいいから再生することを優先。哺乳類の場合、あまりに旺盛な再生能力を獲得してしまうと、運動機能のバランスが崩れて、歩こうとしても後ろにひっくり返るなどの恐れがある。それが私の理解です。Column14研究と臨床は、ウィンウィンの関係。なぜ哺乳類はまひが残るのか?

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