仮想空間で事前にシミュレート。先端技術で治療のイノベーションを起こす。宮川 繁アバターを用いて治験。効果的な治療法をあらかじめ明らかにし、安全性を確保した上で本人に施せるようになる。2021年より大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学 教授。早くから再生医療に着目し、ハートシートの開発をはじめ、従来の心臓血管外科にはなかった発想の治療を数多く考案。患者負担の少ない心不全治療を目標とし、細胞製品、新規薬剤、デバイスの開発とそれらの臨床への応用に取り組んでいる。阪大病院で日本初の脳死心臓移植が行われたのは1999年。しばらく件数は横ばいが続き、2010年には臓器提供に関する要件が緩和されましたが、それでも現在、年50件程度にとどまっています。理由はドナー不足。一方で、高齢化が進む日本の心不全患者数は右肩上がりと予想され、2030年には130万人に達する見込みです。この事態にどう対処するかが喫緊の課題となっています。そこで2000年代初頭から私たちが注目していたのが再生医療。筋肉から取り出した筋芽細胞を増殖させてシート状にし、本人の心臓表面にペタッと貼り付ける方法が提唱されました。その箇所でサイトカインを呼ばれるタンパク質が作用し、新しい血管が伸びて、栄養や酸素が運ばれ、心臓が元気になるというメカニズムです。阪大で2007年に複数の患者さんに移植したところ、人工心臓を外せるまで回復する人も。当時としては画期的でした。2015年に虚血性心筋症の治療として保険適用となり、現在に至ります。さらに私たちの研究室では、人の血液の細胞をiPS細胞に変え、そこから心筋組織の作製に成功。このシートの実用化に向けて治験中です。他人の細胞を使えるのがポイントで、治療効果も高いとされています。将来的には、仮想空間で正確なシミュレーションができるといいですね。患者さん本人を完全再現したアバターで、お薬の選定をはじめ、最適な治療法を探っていく。2050年には人による治験はもはや必要ないかもしれません。もちろん、心臓の分野では、外科手術の意義は当面失われないでしょう。機能不全のところを取り除き、置き換えるのが治療の基本だからです。ただ、それだけでは難治性の病気を克服することはできません。外科医だからこそ外科に固執してはならない。この精神こそがイノベーションを生むと信じています。大阪大学大学院医学系研究科外科学講座 心臓血管外科学 教授DOEFF Vol. 1105Shigeru Miyagawa2050年にはこうなってる?増え続ける心不全に、増え続ける心不全に、再生医療で立ち向かう。再生医療で立ち向かう。
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