DOEFF vol11
9/24

患者は東京、術者は大阪。そんな遠隔手術も夢ではない。期は特に成績良好です。しかしながら、Ⅱ期以降、リンパ節に転移するような段階では、5年生存率がぐっと下がるのも事実。再発率も高く、研究の余地はたくさん残されています。肺がんの領域で著しく進化したのは分子標的薬です。がん細胞を採取して、遺伝子の変異を調べれば、その人に効く薬を特定できるようになりました。これまでの抗がん剤は、使ってみなければ効果は分からなかったので、大変な進化です。さらに近年は、画期的な免疫療法も登場。私たち呼吸器外科は手術メインで治療にあたってきたわけですが、闘える「武器」が増えてきたのは心強いところです。がんの転移メカニズムも私の重要な研究テーマ。転移するには、がん細胞はいったんバラバラになって遠くの組織に運ばれる必要があり、この現象をEMTと呼びます。そこに着目して研究を進めたところ、がん細胞に抗がん剤や放射線を与えると、バラバラになるのを促進する場合があることを突き止めたのです。がん細胞も「生き物」であり、自分は生き残ろうとします。さまざまな「攻撃」に対して抵抗すべく、さまざまな物質を放出。それが周囲の線維芽細胞を活性化し、そこからがん組織になんらかのフィードバックがあって悪化することが分かってきました。このサイクルをどのように断ち切るかが目下の研究課題です。では、てきめんに効く薬があれば、外科医は不要になるのでしょうか。いつかはコンピュータが操作するロボットだけで事足りるかもしれません。ただ、手術中は刻一刻と状況が変わりますから、急な出血にもマシーンは対応できるのかという疑問が拭えないのです。実は、手術中に「怖い」という感覚がないと外科医は務まりません。これ以上は危ないからもっと慎重に進めるとか、いっそやめておくとか。そういう抑制的な態度が大切であることを外科医は経験的に知っています。当面は、やはり人の頭と手が欠かせないでしょう。通信技術の進歩によって、2050年には、患者さんは東京、術者は大阪といったような遠隔手術が行われていても不思議はありません。難しい手術を受けるために、患者さんがわざわざ遠い病院に移動する必要はなくなります。腕の立つ外科医は世界中からお呼びがかかる。そういう時代がやってくるかもしれませんね。2019年より大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器外科学 教授。阪大医学部卒業後、複数の関連病院で外科医として勤務。2000年に母校に戻り、研究の道へ。肺がんの転移メカニズムの解明や治療法の開発に長年取り組んできた。臨床では、移植を含むさまざまな手術の経験が豊富。胸腔鏡手術やロボット支援手術にも精通している。07Yasushi Shintani

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る