「体の不自由な人」はいなくなる。脳波を測ってAIで解読することで、文字を打ったりロボットを操作したりできないだろうか。そういう発想の元、長年研究に取り組んできました。実現すれば、意識ははっきりしているのに体がまったく動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんのほか、脊髄損傷や脳卒中で半身不随になった方の生活をサポートすることが期待されます。ALSの患者さんが視線を動かしてパソコンを操作する機器は実用化されていますが、次のステージに行きたい。そこで、脳の働きだけでスイッチを押せるような次世代の意思伝達装置の臨床実験を近々予定しています。鍵を握るのは、脳の信号を正確に測るための埋め込み装置。3cm×4cmほどの四角形で、1cm弱の厚みがあり、開頭して埋め込みますが、手術自体はそれほど難しくありません。ここまで到達するのに15年ぐらいかかりましたから感無量です。こういった方法はかつて誰も考えていませんでした。私たちがパイオニアであると自負しています。深層学習の手法が登場し、脳信号を解読する技術も格段に向上しましたが、進化のスピードは期待したほどではないと感じます。それは、AIに学習させる質の高いデータが不足しているから。24時間365日、脳波を測り続ALSの患者が、仮想空間内でバリバリ仕事をこなし、趣味を楽しめるようになるのも夢ではない。(ひらた・まさゆき) 2019年より大阪大学大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座 特任教授(常勤)。東京大学大学院工学系研究科を修了後、自動車メーカー勤務。その後、医学を志し、大阪大学医学部へ。エンジニアと脳神経外科医、二つの経験を活かし、BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)など医工連携の研究に取り組んでいる。けられるような環境があればいいのですが、なかなか難しい。そこが課題なんですが、埋め込み装置が解決してくれるでしょう。そうなれば、そう遠からず、体は不自由でも仮想空間でアバターを介して社会復帰できるようになるでしょう。実はこの程度であれば今の技術でも十分に実現可能です。2050年には、脳信号に基づいて神経を電極で刺激することで実際の手足も動くようになり、アシストスーツなしで健常の方となんら変わらず日常生活を送れるようになるはず。現実の世界で寝たきりの方がいなくなる──そんな未来も決して夢ではないのです。09脳の働きだけで、思い通りに機器操作。平田 雅之大阪大学大学院医学系研究科脳機能診断再建学共同研究講座 特任教授
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