私の専門である公衆衛生学は、「個人」ではなく「集団」の健康を考える学問です。研究のフィールドは病院の中に限定されず、社会全体に広がっています。病院の中での治療よりも、人が病気になる前の「予防」や、どの時点から罹患したのか特定しづらい高血圧や糖尿病といった生活習慣病が主な研究対象です。ほかにも、健診の仕組み作りとその評価、医療経済、医療倫理など、守備範囲の広さも特色でしょう。新型コロナの流行以降、「行動変容」という専門用語が一般に浸透したように、「社顔の血色や表情からリアルタイムで健康状態を把握し、改善を促す。従来型の健診は不要に。会としてどのように対処すべきか」という議論が頻繁に交わされました。3年に及ぶパンデミックは、まさに公衆衛生の縮図だったともいえます。私のキャリアの出発点は、眼科の臨床医です。糖尿病を患った方がある日突然失明する糖尿病網膜症という怖い病気があります。進行中に自覚症状がないので、治療に結びつけるのが大変難しい病です。そのため、効果的な受診勧奨の方法を定めることが重要になります。そもそも糖尿病にならないためにはどうしたらいいのかという10眼を見れば、全身が分かる。第1回:医療とAI
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