DOEFF vol12
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アナログとデジタルの微妙な関係確かめるために、実験を行います。目の前で見えていること、ここは茶色でここは茶色でないという現象は揺るぎません。そこから、さらに深掘りするには、「妄想」の力が必要です。現在は、スポットごとにRNAを抽出するなど、遺伝子を解析する方法が登場しています。ひとつのがんでも、場所によって遺伝子の発現レベルが全然異なることが分かってきました。ここまでつまびらかにされてしまうと、人間の「妄想」が働く余地がかえって少なくなるのも確かです。しかしながら、そうなったらそうなったで、別の「妄想」が湧き起こってきます。というのも、これまでに報告されていないような遺伝子がたくさんリストで表示されるからです。たまたま発現しただけかもしれませんし、実は隠れた主役なのかもしれません。新たにかき立てられた「妄想」を起点に、また探究していけばいいのです。デジタルの時代に、なぜ病理の世界で顕微鏡がなくならないのか。それは安価で速いからです。専用のデジタルスキャナーは非常に高額で、顕微鏡ならその1/10で済みます。さらに、放射線科なら画像自体がオリジナルですが、病理の場合、標本という「ブツ」が先にあり、スキャンする過程はいってみれば二度手間です。放射線科ほどAIの活用が進んでいないのはそのあたりも背景にあります。そもそも顕微鏡にカチャとスライドをはめるのも手作そのような心持ちになれたことには、恩師たちとの出会いが大きく影響しています。まず北村幸彦先生。学部生の頃から先生がリタイアされるまで12年ほどお世話になりました。あの方は、フラットに物事を見て、既成概念を打ち破っていくタイプ。衝撃的だったのが、ある医学雑誌の「なぜ病理医が足りていないのか」というアンケートに、「単価が低いから」とお答えになったことです。病理医が本当に必要とされているのであれば、もっと単価は上がる。つまり、病理医は必要とされていないのでは、という挑発的な問題提起でした。当然、同業者から強い反発が起こるのは目に見えていますが、北村先生には信念があり、発言に躊躇がない。忖度せず、ちゃんと意志表示して、みんなと意見を交わそうとするわけです。もう一人の師匠が、北村先生の後に師事した青笹克之先生です。とにかく、病理診断に対する姿勢がすごかった。診断が正しかったかどうかは、患者さんの予後がすべてです。先生は、リンパ腫のタイプ分けが正しかったどうかを検証するため、業。アナログの部分が必ず残っているわけです。とはいえ、標本のデータにさえアクセスできれば、遠隔で病理診断が可能。現在そういったシステムの実用化が進んでいます。遠隔地をつなぐことで、病理医のネットワークができてほしい。病理医は、基本的にひとつの病院に一人しかおらず、孤独です。自分の判断が正しいのか迷うこともあります。そんなときでも、全国の仲間に気軽に相談できる。そんな環境が実現できるといいですね。14Column顕微鏡がいまだに重宝される理由恩師から学んだのは、信念を貫くこと。日々の積み重ねが、扉を開く力になる。

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