DOEFF vol12
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脳波をAIで読み解き、コミュニケーションの問題を解決する。主な研究テーマは、ブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)です。分かりやすくいえば、脳の信号である脳波を受け取って、ロボットなどの外部機器を動かす技術のこと。通常、外科手術で脳内に電極を入れて脳波を測定します。最近のアメリカでの研究では、脳波から毎分62単語分の文字を打ち出すことに成功。実用的なレベルに到達したといっていいでしょう。これにはAIの進化が大きく寄与しています。私たちの研究グループでは、脳波による認知症の判定に取り組んでいるところです。正答率は9割で、認知症の前段階にあたる「MCI」も識別できます。鍵となるのは深層学習の技術。少ないデータ量であっても、AIが自ら学習し、疾患につながる脳波の特徴を導き出し、判別してくれます。さらに先行研究では、人が見ている画像を脳波から推定できるようになっていますが、私たちは、人が「想像」した内容と同じ意味の画像を表示できる技術の開発に成功しました。これにより、意識は正常でも体が動かなくなった筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんが、自分の考えを自在に伝えられるのも夢ではなくなったのです。BCIの進化はとどまることなく、さらなる革新をもたら(やなぎさわ・たくふみ) 2018年より大阪大学高等共創研究院 教授。脳信号をAIで読み解くことで、新しい診断法・治療法につなげる研究に取り組んでいる。想像した内容の画像を表示する技術の開発に世界で初めて成功。その成果を、重度の麻痺がある神経難病の患者へ適用し、意思伝達の補助や運動機能の再建を行うことを目指している。体が動かなくても、自分の考えを映像や文章にすることができる。意思疎通が劇的に改善。すでしょう。脳の失われた機能を再建する技術もそのひとつ。失語症や記憶障害を患っても、AIが搭載された埋め込みデバイスが脳の機能を代替し、元の生活に戻れる時代がやってくるかもしれません。カテーテル手術のように、針を刺して極小のデバイスを脳内に導く低侵襲な手術法の開発も進んでいます。ただし、脳とAIが相互に作用する際、人間にどんな影響を及ぼすのかはまだよく分かっていません。慎重さが求められるのは確かです。とはいえ、医療の未来のために、この歩みを止めてはならない。そんな思いで研究にまい進しています。大阪大学高等共創研究院 教授(脳神経外科学)05気持ちを伝える方法は、念じるだけ。栁澤 琢史

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