DOEFF vol12
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AIは「良きパートナー」。共存する道を探ろう。くても、新たな発想があれば、誰でも医療支援システムを作ることが可能となりました。これはまさに次元の異なる進化であり、常識が一変しようとしています。現在の大規模言語モデルは、どんな分野にも適用できる汎用的なものが多いのですが、いずれは医療に特化したモデルも開発されるでしょう。人間にはどうしても判断のブレや見落としがありますが、それがないのはAIの強みです。健診などの画像の読影は、本来はダブルリーディング、つまり2人が行うのが望ましいのですが、人手不足でなかなかできていないのが実情です。ならばAIに片方を担わせるのもありでしょう。最終判断は人間がやればいいのです。ChatGPTなどの大規模言語モデルを用いたコンピューター支援診断は、放射線科の画像診断以上に、内科の診察と親和性が高いともいえます。内科は、患者さんへの問診など、言葉で病気にアプローチするのが基本ですからね。病歴を踏まえて投薬の内容を決める際にも、AIはその威力をいかんなく発揮するはずです。AIに医師の仕事が奪われるという懸念は以前から指摘されていました。私としては、医療の世界に限らず、すべて の領域でAIを「使いこなす」ことが重要であると考えています。定型的な作業はコンピューターにやってもらって、人間はもっとクリエイティブな仕事に傾注すればいいのです。AI操作のスキルは医者にとって必須となるでしょう。今の医学部生にとって統計学は必須の知識ですが、いずれそこにAI関連科目が加わると思います。医療が細分化されてきて、医師であっても専門外のこと(きど・しょうじ) 2019年より大阪大学大学院医学系研究科 人工知能画像診断学共同研究講座 特任教授(常勤)。名古屋大学大学院工学研究科を修了後、医学に転じ、大阪大学医学部に進んだ。医用画像処理を柱とする工学の知見と、主に胸部領域を取り扱う放射線科医としての経験を活かし、画像診断をコンピューターで支援するシステムの開発に長年取り組んでいる。に精通するのがなかなか難しいという課題を解決する仕組みとして、さまざまな診療科が集まって治療の方針を決める「カンファレンス」が行われていますが、これにAIをアドバイザーとして組み入れるのが当たり前になるかもしれませんね。ただ、現時点でAIは完璧ではなく、人間が間違える程度と同等、あるいはそれ以上に間違えたり、さらには嘘をついたりする可能性があります。ある実験では、終末期の患者さんに安楽死を勧めてしまうケースもあったそうです。何が良くて何が悪いのか。常識や倫理観をコンピューターに教えるのは非常に難しい。その壁を乗り越えなければならないのは確かです。とはいえ、5年後ぐらいには、AIによって医療にもっとアクセスしやすい環境が整備されているといいですね。例えば、医者に診てもらいたいときに、まずAIのネットドクターに相談して、必要に応じて実際にクリニックに行く、というような。そうすればたらい回しをなくすことにつながります。医者にとっても患者にとっても、AIは「良きパートナー」であるべきなのです。私の目標は、AIを臨床で実用化すること。医学を志して以来、人の役に立ちたいとの思いが原動力でした。今が研究者にとって「楽しい時代」なのは間違いありません。07木戸 尚治大阪大学大学院医学系研究科人工知能画像診断学共同研究講座 特任教授

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