DOEFF vol13
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マウスの肝臓を「ヒト化」する。肝臓は、あれだけ体積が大きく、多彩な仕事をしているのに、体内にそれがあることを誰も意識しません。生体肝移植の場合、健康なドナーなら、2/3を切除しても2か月ぐらいで元のサイズに戻ります。とても不思議で奥深い臓器です。研究が進むにつれてさらに惹かれるようになりました。アルコールに起因しない脂肪肝である「NナッフルディーAFLD」の研究にも注力しました。患者さんはとても多いのに、発症原因は不明で、診断法も治療法も未確立な状態が続いています。肥満の方がなりやすいとされますが、患者さんの20%は肥満ではありません。自覚症状もなく、やっかいな病気です。研究人生を振り返ってみると、「細胞死」に着目したのがポイントでした。個体の生命を維持するために、個々の細胞にはあらかじめ「死」がプログラムされています。ウイルス肝炎やNナッフルディーAFLDでこの死のプログラムが活性化されることを見出しB型肝炎を引き起こすのはウイルス。ウイルス自体はヒトにしか感染しませんが、ヒトの遺伝子をヒト以外の動物の肝臓に導入するだけでウイルスを増やす技術が開発されました。B型肝炎はヒト以外には感染しないため、動物実験ができず、かねてから研究しにくいという 課題がありましたが、この技術を用いると、急性肝炎や慢性肝炎の動物モデルを容易に作出できます。このような研究によって、ウイルスたのです。さらに、細胞が自己を消化する「オートファジー」は、成分のリサイクルによって細胞が浄化される現象で、「死」が「再生」につながるという意味では細胞死と似たようなところがあります。私の研究室では、NナッフルディーAFLDにおいて、ルビコンというタンパク質がオートファジーを妨げていることを突き止めました。関連病院で臨床医だったときは、肝臓に限らず、胃や腸の患者さんも診ていました。消化器の枠を 超えて、肺がんや血液疾患を診たこともあります。当時の内科というのはそんな感じだったのです。現在の医療の課題として、専門分化され過ぎていると指摘されることがあります。「自分の担当では肝炎の新しい治療のヒントを得ることができるのです。B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスを動物に感染させるために、マウスの肝臓を「ヒト化」することもできます。ヒトの肝細胞を移植することで、マウスの肝臓がヒトの肝細胞に置き換わり、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに容易に感染するようになるのです。ここにも技術革新の恩恵が見て取れます。14Column患者さんに寄り添い、「全身」を診る意義。技術革新で、肝炎の克服を。まずは行動。それが私のスタイルです。

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