教室紹介

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本講座を紹介します。

方法論の高度化

医学研究ではヒトを対象にすることが多く、倫理面に最大限の配慮をしたうえで、しばしば大きく制御できない個体差に伴うばらつきの存在を前提として科学的推論を行う必要があります。統計学が行う、確率論に基づく定量的評価がそのための有力な方法を与えることから、医学研究において統計学が重要視されています。最近報告されたNew England Journal of Medicine誌で用いられている統計手法の変遷によると、最も基本的な方法であるt検定の利用される頻度が相対的に減少しており、より複雑な方法の利用が増加している現状が見て取れます(Sato Y et al., N Engl J Med 376; 2017)。方法論自体が大きく発展し続けており、以前は手のつかなかった考察ができるようになってきていることを反映しているとともに、より多くの統計家が医学研究に参画していることがその高度化を支えていることが背景にあると考えられます。

人材育成

一方で、最近、最も影響力が強い統計学関連の団体と考えられるアメリカ統計協会が、P値の利用に関する声明を発表しました(Wasserstein RL et al., The American Statistician 70; 2016)。この声明ではP値の解釈ならびに誤用に関する注意喚起がなされています。このような、統計学の極めて基本的な概念に関する声明が現代において必要となってきた背景には、統計的方法が広範な分野で活用されているにも関わらず、各応用分野に寄与する統計家の数が必ずしも十分でなく、統計学教育の充実している米国においてさえもそのような状況であることを示唆していると考えられます。我が国における状況はより深刻で、医学統計学分野では慢性的な人材不足が問題となっており、医学統計手法の高度化にキャッチアップでき、その適切な応用を通じて医学研究に貢献できる人材、更には、既存の方法では満足のいく解決法の与えられない新たな統計的課題を見出し、新しい方法を自ら作り出し、適用することで、医学統計学ならびに医学研究の発展に寄与していける人材の育成が緊急の課題となっています。

医学研究に有用な数理科学的方法の開発

無作為化試験の方法が医学研究における極めて有効な方法であることが共通の認識となっていますが、それが内包する倫理上・実施上の困難を既存データの有効活用により乗り越えていこうという試みが、Real-World-Evidenceの名のものに進んでいます(Serman RE et al., N Engl J Med 375; 2016)。観察研究からの統計的推論を可能とする因果推論等の医学統計学的技術の著しい発展が背景にありますが、解決されねばならない問題が山積しています。微分方程式モデルなどの、よりメカニズムの理解に迫るモデリングの統計的推論もますます重要となってくると考えられます。本研究室では、従来の狭い意味での医学統計学の枠にとらわれず、医学研究に有用な数理科学的方法の開発とその応用を通じて医学研究に貢献していきたいと考えています。また、それを通じた人材育成に努めてまいります。