2026年
- Sunami H, Hattori S. Semiparametric piecewise accelerated failure time model for immune-oncology clinical trials. Biometrics 82 (1), ujaf171, 2026.
無作為化研究はもっとも信頼度の高い研究方法として受け入れられ、臨床医学の発展に大きく貢献しています。一方で、費用面や倫理的な面で無作為化研究の実施が困難な場合も見られ、既存のデータベースなどの観察研究の統計解析が重要な役割を果たしています。観察研究においては、交絡因子の影響を適切に調整することが必要となり、目的変数と共変量の関連のモデリングに基づく方法(OR)や、傾向スコア、すなわち、共変量と治療選択の関連のモデリングによる方法が利用できます。これらの方法で交絡因子を適切に調整するには、それぞれの関連のモデリングが適切であることが必要となります。このモデリングの不確実性を軽減する目的で、ORと傾向スコアによる重み付け推定法の両者を組み合わせ、いずれかの少なくとも一方のモデリングが適切であれば交絡因子の影響が適切に調整できる、二重頑健推定法が注目を集めています。Hattori and Henmi (2014)では、更に傾向スコアによる層別解析を組み合わせることで、傾向スコアのモデルとして複数のモデルを許容する層別解析の方法を提案しました。このような複数の候補のモデルを許容する方法論は多重頑健推定と呼ばれ、モデル選択とは異なるパラダイムによる新しい統計的推測の枠組みと考えることができます。先行研究では経験尤度法に基づく多重頑健推定量が提案されてきましたが(Han and Wang 2013, Biometrika)、この方法は傾向スコアの重み付き推定に相当しており、我々の方法はより頑健な層別解析を組み込んでいる特徴を持っています。Nomura and Hattori (2018)では、純粋に傾向スコアの層別解析に基づいて、傾向スコアのモデリングの誤特定に対して非常に頑健でかつ簡明な多重頑健推定量を提案しています。
Hattori S and Hemni M (2014). Stratified doubly robust estimator for the average causal effect. Biometrics 70, 270-277
Nomura T and Hattori S (2018). Estimation of the average causal effect via multiple propensity score stratification. Communications in Statistics, Simulation and Computation 47(1), 48-62.
傾向スコアによる交絡の調整法としては、重み付け解析以外にも、層別解析が知られています。著しい性質を有している二重頑健推定量が、傾向スコアの重み付け解析に依っていることから、最近の傾向スコア解析の発展のほとんどは重み付け解析に依っています。しかしながら、層別解析は、重み付け解析よりも頑健でありかつ安定する長所を有しています。一方で、いくつかの少数の層による層別に基づいているため、調整しきれないバイアス(残差交絡)の問題を残しています。Tsujimoto and Hattori (2026)では、層別推定量が局所定数の傾向スコアでの逆確率重み付け推定としての解釈に加えて、局所定数な傾向スコアによるアウトカム回帰と見なせるとこと指摘し、それに基づいて層別解析の頑健性を保持しつつ、残差交絡のない推定量を提案しています。さらに二重頑健型推定量を提案していますが、これは逆確率重み付けに依らない二重頑健推定量を与えています。
Tsujimoto N and Hattori S (2026). Eliminating residual confounding in the stratified estimator via smoothing along with the propensity score. Statistical Methods in Medical Research, accepted.
傾向スコアによる交絡の調整は広く観察研究の解析に応用されていますが、解析結果の妥当性の前提として、すべての交絡因子が測定され、適切に傾向スコアがモデリングされていることが必要となります。しかしながら、すべての交絡因子が測定されている保証はなく、未測定交絡因子の問題は、観察研究の統計解析に常に付きまとう重要な問題となっています。未測定交絡因子の影響がどの程度あり得るかを定量化する様々な感度解析の方法が提案されています。未測定交絡因子がどのように影響するかをモデリングすることで評価することがあり得ますが、そのメカニズムをモデリングすることは困難で、限定的な検討しかできないことになります。仮定を置かないで評価する場合には、付加的な情報がなく、不確実性が大きく、ほぼ情報のない解析結果に留まってしまう可能性があります。このように感度解析法には決定版と呼ばれるものが存在しない現状にあります。Tang, Yi, Huang and Hattori (2024)では、推定関数に基づく制約を導入することで、最小限の仮定のもとで平均因果効果の上限と下限を与える感度解析法の試みを行っています。Tang, Yi, Huang and Hattori (2025)では、連続型アウトカムあるいは二値型のアウトカムを想定していましたが、Tang, Yi, Huang and Hattori (in preparation)では、生存時間アウトカムを対象として、ハザード比あるいは制限付き平均生存期間(RMST)に対する上下限を与える方法を検討しています。
Tang C, Zhou Yi; Huang A and Hattori S (2025) A simple sensitivity analysis method for unmeasured confounders via linear programming with estimating equation constraints. Statistics in Medicine 44(3-4).
生存期間を主要評価項目とする無作為化臨床試験では、各投与群の生存関数をKaplan-Meier法で推定し、群間比較をlogrank検定で比較することが広く行われます。治療効果はハザード比で要約されることが多く、Cox比例ハザードモデルが広く用いられています。このlogrank-HRストララテジーにより解析を行う場合、目標とするイベント数が観察された際に統計解析を行うイベント駆動型のデザインをとることができます。イベント駆動型デザインをとることで、検出したい治療効果に対して、確実に目標の検出力を確保することができます。このことは、logrank-HRストラテジーの大きな強みで、他の解析法をとった場合には必ずしも成り立ちません。一方で、logrank-HRストラテジーでは、共変量情報を解析に組み込むことができない欠点があります。Hattori, Komukai and Friede(2022)では、共変量調整logrank検定で検出力の改善を諮りつつ、検出したい治療効果に対する検出力を保証する、イベント駆動的なデザインを提案しました。
再発事象に対しては、個人内のイベント発現時間が独立である場合には同様のイベント駆動型デザインをとることができますが、独立でない場合には困難であり、検出力は試験開始時点でのイベント間の関連のモデリングに依存します。そのため、デザイン段階での設定が適切でないと検出力が不十分となる可能性があります。Zhang and Hattori (2026)では再発事象に対するAndersen-Gillモデルに対して、ロバストサンドウィッチ分散をブラインド下でモニタリングし、目標の値に達した時点で解析することで、検出力不足を生じなくする方法を提案しました。
上述の方法の妥当性には比例ハザード性が成立していることが必要となりますが、最近の癌免疫療法の臨床試験では、免疫応答が開始されるまでに一定の時間が必要であり、それまでは治療効果が期待できないため、比例ハザード性が成立していないと考えられます。そのため、制限付き平均生存期間(RMST)など、比例ハザード性を要求しない解析法に注目が集まっています。RMSTに対してはイベント駆動型のデザインをとることは困難で、目標症例数の設定には、検出したい治療効果以外のパラメータを試験デザイン時点で想定する必要があり、その誤設定は検出力の不足につながり得ます。Hattori and Uno (2025)では、RMSTおよびその共変量調整版に対して、想定した治療効果に対する検出力を保証する盲検下症例数再計算の方法を開発しています。また、Hattori, Maeda and Uno (2026, in revision)は、盲検下のデータを与えたもとでの分散の上限を数理計画法で求め最悪の状況での検出力を十分に確保することでこの問題を取り扱うことを提案しています。この原理は広く盲検下症例数再計算に適用できる可能性があり、より広範な問題での検討を行っています。
Hattori S, Komukai S, Friede T (2022). Sample size calculation for the augmented logrank test in randomized clinical trials. Statistics in Medicine,2627-2644.
Zhang J and Hattori S (2026). Event-driven type design for clinical trials with recurrent events. Submitted.
Hattori S and Uno H (2023). On sample size determination for restricted mean survival time-based tests in randomized clinical trials. Biometrical Journal 67(2).
Hattori S, Maeda H and Uno H (2026). Blinded sample size re-estimation for the restricted mean survival time via the worst-case variance evaluation using mathematical programming. In revision.
目標被験者数の決定には、検出すべき治療効果以外のパラメータに何らかの設定をする必要がある場合が多く、その設定が適切でないと検出力が十分でない試験となる可能性がある。それを回避するために、治験途中でのデータを利用して目標被験者数を変更する被験者数再計算の方法が一つの方法を与える。試験の妥当性を保証するために、治験途中で割り付け治療を開示しない盲検下被験者数再計算が望ましい。2.1の後半で紹介したような分散の最悪評価を行うことが一つの方法である。アウトカムが正規変量の場合、割り付けを無視して両群のデータをプールして計算した一標本分散が一つの分散の上限を与えることが分かっているが、特に小規模試験では推定誤差の影響で、十分に検出力をコントロールできないことが知られている。Maeda, Hattori and Friede (2026)では、分散推定の信頼区間を考え、その信頼係数を適切にコントロールすることで、再推定された被験者数が適切に目標の検出力を達成する方法を提案しました。この方法は被験者数が極めて少ない場合にも機能し、希少疾患を対象とした臨床試験での意義が期待できます。
Maeda, Hattori and Friede (2026). Blinded sample size re-estimation accounting for uncertainty in mid-trial estimation. Submitted.
最近の癌免疫療法の臨床試験では、免疫応答が開始されるまでに一定の時間が必要であり、そこまでは生存曲線が一致していることがしばしば観察されます。それまでは治療効果がなく比例ハザード性が成立していないと考えられます。そのため、制限付き平均生存期間(RMST)など、比例ハザード性を要求しない治療効果指標に関心が集まっています。ある時点まで生存曲線が重なっていることは、免疫療法の恩恵を受けられない患者さんが一定数存在することを意味します。RMSTは平均的な治療効果の要約を与えますが、このような症例の特徴づけには無力です。Sunami and Hattori (2026)は、免疫応答開始後から生存時間が加速されるセミパラメトリック区分加速モデルを提案し、その推測法を議論しました。このモデルではどのような症例が免疫療法の恩恵を受けられない確率を算出することができ、その特徴づけを行うことが可能となります。一方で、その推測は計算負荷が大きく、現在は計算負荷の少ないセミパラメトリック推測法を開発しています。Xu and Hattori (2026)はパラメトリックモデルの枠組みでの推測により、ベースラインハザード関数をモデリングしているものの、個別の治療効果を許すモデルの推測を議論しています。治療効果を受けられない確率と個別の治療効果の2次元の治療効果パラメータに基づいて、免疫療法の効果の特徴づけを階層的クラスタリング等で行うことを提案しています。
Sunami H and Hattori S (2026). Semiparametric piecewise accelerated failure time model for immune-oncology clinical trials. Biometrics 82 ujaf171
Xu X and Hattori S (2026). Bayesian inference of the parametric piecewise accelerated failure time models for immune-oncology. Submitted.
抗悪性腫瘍薬の臨床開発では、臨床第三相試験での大規模な検証試験の実施前の早期臨床試験で、有望な治療法をできるだけ確実に、かつ効率的に選択することが求められます。そのための臨床第二相試験の方法として、バスケット試験デザインが注目を集めています。通常の臨床第二相試験では、単一の化合物の抗腫瘍効果を対象となる癌種や組織型を限定した上で、単群試験にて検討します。バスケット試験デザインでは、複数の癌種や組織型に対して単群試験を並行して実施することで効率を上げることを目指す試験デザインで、大きな関心を集めています。癌種や組織型によっては試験に組み入れられる症例数が少ないことから、並行に実施していることを利用して、異なる癌種や組織型での結果をお互いに有効に利用することが望まれます。このための方法論が多く開発されてきましたが、そのほとんどがベイズ統計学の枠組みを用いています。ベイズ統計学の方法は、外部からの情報を組み込むことに長けていますが、一方で、第一種の過誤確率の制御は困難で、客観性を担保することが必ずしも容易ではありません。単群試験は正確二項分布のよる検定と正確信頼区間による簡明な方法が広く用いられていますが、その層別版ともいえるバスケット試験では著しく複雑な方法の提案が中心となっています。Hattori and Morita (2023)では、疫学研究で広く用いられているMantel-Haenszel法のアイディアを用いることで、純粋に頻度論による簡明な方法を提案しています。この方法は、正確検定、Mantel-Haenszel型推定、一般化情報量規準による有効なバスケットの同定からなっています。すべての方法が明示的な表現を持つ統計量で実現可能で、極めて簡明ですが、信頼区間の構成は漸近理論によっており、各バスケットの症例数が十分でない状況での性質がよくない場合があります。Ohara and Hattori (in preparation)は、この点を解消するための正確信頼区間の構成法を開発しており、バスケットの数が小さく、各バスケットの被験者数が大きくない場合でも、適切な被覆確率をもつ信頼区間が構成可能であることを示しました。また、競合的に組み入れの可能性がある場合に検出力を保証する被験者数計算法を線形計画法の応用により構成しました。Hattori and Morita (2023)で提案した有効バスケットの同定のための情報量規準は、孤立バスケットが存在する場合にうまく機能しない欠点があることが判明し、Tanaka, Ohara and Hattori (2026, in revision)では、その点を解消した情報量規準の提案を行っています。
Hattori S and Morita S (2023). Frequentist analysis of basket trials with one-sample Mantel-Haenszel procedures. Statistics in Medicine 42(26), 4824-4849.
Tanaka S, Ohara R and Hattori S (2026). Frequentist identification of effective baskets via the generalized information criteria in oncology Phase 2 trials. In revision.
バイオマーカーなどの背景因子と生存期間の関連を調べる予後因子研究は広く行われ、疾患の特徴付けや治療標的の探索に重要な役割を果たしています。Cox比例ハザードモデルは生存時間解析の標準的な方法として広く用いられていますが、バイオマーカーの評価には十分でなく、診断法の解析手法であるROC解析を生存時間解析と結びつけた時間依存性ROC解析が提案され(Heagerty et al. 2000, Biometrics)、臨床研究にも応用されてきています。我々は肺癌におけるFDG-PETと生存時間との関連を調べる研究(Zaizen et al. 2012, European Journal of Radiology)において、時間依存ROC解析の適用を試みましたが、症例数が十分でなく意味のある結果を得ることができませんでした。このことに動機付けられ、Hattori and Zhou(2016)では、論文中に報告されている予後因子研究結果のメタアナリシスに基づいて時間依存ROC解析を行う方法を開発しました。この方法により、メタアナリシスによって被験者数を著しく増やすことができ、その結果、効率的に時間依存性ROC曲線の推測が可能となりました。この方法は1年生存率など、特定の固定した1時点での解析を意図していますが、応用上は多時点の同時推測が重要になります。そのような指標として生存時間に対するC-indexの統計手法が注目されています。我々は、メタアナリシスに基づいて生存時間に対するC-indexを推定する方法の開発を行っています(Hattori and Zhou 2021)。関連する研究として、Sadashima, Hattori and Takahashi (2015)では、ROC解析ではなくハザード比に基づく予後因子研究の要約の方法を議論しています。
Hattori S and Zhou XH (2016). Time-dependent summary receiver operating characteristics for meta-analyses of prognostic studies. Statistics in Medicine 35(26), 4746-4763.
Hattori S and Zhou XH (2021). Summary concordance index for meta-analysis of prognosis studies with a survival outcome. Statistics in Medicine, 40 (24), 5218-5236.
Sadashima E, Hattori S. and Takahashi K (2016) Meta-analysis of prognostic studies of a biomarker with a study-specific cut-off value. Research Synthesis Methods 7(4), 402–419
前節で取り扱った生存時間データの場合に比べて、目的変数が二値となる診断法研究のメタアナリシスの方法は、要約ROC曲線の方法が確立され、広く応用されています。一方で、要約ROC曲線の解析にも問題が残されています。
ROC曲線は感度と特異度すなわち、疾患の状態を与えた下でのバイオマーカーの分布による解析であり、バイオマーカーの測定値を手にしている医師や患者の意思決定に直接結び付きにくい欠点を有しています。一方、陽性および陰性予測値はバイオマーカーの値を与えたもとでの疾患の確率として定義され、より解釈が容易で治療選択に有用な概念と考えられます。Hattori and Zhou (2016)では予測値に対するROC曲線に相当する予測値曲線を診断法研究の論文中の情報のメタアナリシスにより推定する方法を提案しました。予測値曲線をメタアナリシスにより推定する問題意識自体が過去になく、提案法が最初の方法を与えています。
Hattori S and Zhou XH (2016). Evaluation of predictive capacities of biomarkers based on research synthesis. Statistics in Medicine 35(25), 4559-4572.
有害事象のメタアナリシスには様々な特有の問題があり、フォローアップ期間の不均一性がしばしば問題となります。抗悪性腫瘍薬の臨床試験ではProgression-free survival time (PFS)が主要評価項目とすることがありますが、その場合、腫瘍増大が観察されPFSが確定すると試験を終了し有害事象のフォローアップを終えることが通常です。その場合、有害事象のフォローアップ期間が被験者により異なることとなり、有害事象の発現率の単純な比較は解釈が困難となります。Kawaguchi and Hattori (2026)は、文献からの要約統計量に基づく有害事象のメタアナリシスにおいて、フォローアップ期間の違いを考慮する方法の提案を行っています。抗悪性腫瘍薬の臨床試験結果を報告する論文では、全生存期間(OS)あるいはPFSなどの有効性の主要評価項目の結果をKaplan-Meier法によりグラフィカルに報告することがよく行われます。Kawaguchi and Hattori (2026)は、この有効性の結果が有害事象のフォローアップ期間の情報を与えると見なし、有害事象発現までの期間の累積インシデンス関数を文献からの情報から推定し比較する方法を提案しました。累積インシデンス関数にパラメトリックモデルを想定する必要があるものの、フォローアップ期間を考慮した有害事象のメタアナリシスのための最初の方法を与えています。
Kawaguchi S and Hattori S (2026). Literature-based meta-analysis of adverse events accounting for heterogeneous follow-up duration in oncology clinical trials. Research Synthesis Methods, accepted.
臨床試験登録システムを利用した公表バイアスの評価臨床試験のメタアナリシスにおける公表バイアスの問題などに対処するために、Clinicaltrials.gov、WHO International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP)など、複数の臨床試験登録システムが利用可能となっています。2004年に主要医学雑誌の編集者からなる国際医学雑誌編集者委員会(International Committee of Medical Journal Editors; ICMJE)は、臨床試験登録システムへの事前登録を臨床試験結果のこれらの学術誌からの出版の条件とする共同声明を発出し、その結果登録が加速されました。臨床試験登録システムは、未公表研究の検索に有効であるが、現在のところ、検察ツールとしての利用がほとんどであり、膨大な登録情報を統計解析にいかに利用するかは議論されてきませんでした。Huang, Komukai, Friede and Hattori (2021)は、公表バイアスに対する感度解析法であるCopas選択モデルの推測法に臨床試験登録システムに登録されている情報を利用した、より安定した推定法を提案しました。
公表バイアスの問題は、本来存在する研究結果が利用可能でないことから、ある種の欠測値の問題と見なすことができます。しかしながら、通常の欠測値の問題と異なり、完全データがどのような構造かが分からず、通常の欠測値の問題と大きく異なる面があります。実際、用いられている方法は、通常の欠測値に対応する方法とは大きく異なっています。臨床試験登録の利用は、完全データがどのようなものかを決定していることに相当し、公表バイアスの問題が通常の欠測データ解析の方法で取り扱えることを示唆します。この理解に基づいて、Huang, Morikawa, Friede and Hattori (2023)では、欠測データの解析で広く用いられている逆確率重み付け法(IPW法)により公表バイアスの修正を行う方法を提案しました。この方法をネットワークメタアナリシスへ拡張する研究を進めています (Huang, Zhou and Hattori 2026)。
Huang A, Komukai S, Friede T, Hattori S (2021). Using clinical trial registries to inform Copas selection model for publication bias in meta-analysis. Research Synthesis Methods, 12(5), 658–673.
Huang A, Morikawa K, Friede T, Hattori S (2023) Adjusting for publication bias in meta-analysis via inverse probability weighting using clinical trial registries. Biometrics 79(3), 2089-2102.
Huang A, Zhou Y, Maeda H and Hattori S (2026). Publication bias adjustment in network meta-analysis: an inverse probability weighting approach using clinical trial registries. Submitted.
正規近似に基づくNormal-Normal(NN)モデルを対象としていますが、発現率の低い二値アウトカムのメタアナリシスではNNモデルの不適切性が指摘されており、一般線形混合モデルに基づく正確尤度による方法が推奨させます。Hu, Zhou and Hattori (2025)では、このようなスパースデータに対するメタアナリシスにおける、t-統計量型選択関数に基づく感度解析の方法を提案しました。この方法はt-統計量型選択関数を扱えるものの、計算負荷が大きい欠点を有しています。Zhou, Hu et al. (2026)は、稀な事象の場合にHeckman型選択関数による公表バイアスの評価を可能とする最初の方法を与えています。
Hu T, Zhou Y and Hattori S (2025). Sensitivity analysis for publication bias in meta-analysis of sparse data based on exact likelihood. Biometrics 80(3).
Zhou Y, Hu T, Sakamoto Y, Huang A Zhou Xiao-Hua and Hattori S (2026). Copas-Heckman-type sensitivity analysis for publication bias in rate event meta-analysis under generalized linear mixed models. In revision.
医学研究では、良好な結果が得られた研究が論文として出版されやすく、メタアナリシスではそのような偏ったサンプルを対象として解析をせざるをないことになります。このような場合には解析結果に偏り(バイアス)がある可能性があり、このようなバイアスは公表バイアスと呼ばれています。通常の治療効果のメタアナリシスではfunnel plot, trim-and-fill法などの簡明な方法が広く用いられていますが、要約ROC曲線に対してはこれらの方法は適用ができません。Hattori and Zhou(2018)では、要約ROC曲線の推定にどの程度の公表バイアスの影響が生じえるかを見積もる感度解析法と呼ばれる方法を開発しました。これまで要約ROC曲線に対する公表バイアスの影響を評価する方法は皆無で、提案した方法が最初の提案を与えています。Hattori and Zhou(2018)の方法は、Heckman型選択関数に基づいています。実際の診断法研究では、試験毎にカットオフ値を設定して、感度や特異度を報告することがしばしば行われます。したがって、出版されるか否かもカットオフ値に依存すると考える方が自然になります。しかしながら、Heckman型の選択関数ではこのような状況はモデル化できない欠点があります。Zhou, Huang and Hattori (2023)では、感度や特異度に対する検定統計量に依存して出版されやすさが決まるようなt-統計量型選択関数に基づく感度解析の方法を提案しました。Hu et al. (2026)は、発現率が稀な場合にt統計量型選択関数選択関数が扱える方法を開発しています。また、Zhou, Huang and Hattori (2025)は、3.1で紹介した時間依存性要約ROC曲線の場合への拡張を与え、時間依存性ROC曲線に対する公表バイアス評価を可能としています。
Hattori S and Zhou XH (2018). Sensitivity analysis for publication bias of diagnostic studies for a continuous biomarker. Statistics in Medicine 37(3), 327-342.
Zhou Y, Huang A, Hattori S (2023). A likelihood-based sensitivity analysis for publication bias on the summary ROC in meta-analysis of diagnostic test accuracy. Statistics in Medicine, 42, 781-798.
Hu T, Zhou Y, Zhou Xiao-Hua and Hattori S (2026). Sensitivity analysis for publication bias in diagnostic meta-analysis of sparsity using the Copas t-statistic selection function. Statistics in Medicine, accepted.
Zhou Y, Huang A and Hattori S (2025). Sensitivity analysis for reporting bias on the time-dependent summary receiver operating characteristics curve in meta-analysis of prognosis studies with time-to-event outcomes.
Research Synthesis Methods. accepted.
法整備に基づき全ての都道府県で癌登録がなされることとなり、そのデータを有効活用することが期待されています。癌登録生存期間データの解析法としてはPoher-Perme推定量(Poher-Perme et al. 2012, Biometrics)が標準的な方法として受け入れられてきていますが、打ち切りが生存期間と無関係という独立打ち切りを仮定しています。実際の癌登録データの解析においては、打ち切りが患者背景(共変量)に依存する共変量依存打ち切りが問題となり、打ち切りと共変量の関連のモデル化による方法(wPP法)あるいは生存期間と共変量の関連をモデル化する方法(OR法)が既存の方法として利用可能でした。しかしながら、それぞれモデリングが適切になされることが妥当な推測に必要となり、その部分の不確実性がつきまといます。Komukai and Hattori (2017)では、両者の方法を組み合わせ、いずれかのモデル化が適切であれば妥当な推測を与える二重頑健推定量を提案しました。この方法はネット生存時間という概念の推定を与えていますが、癌登録データ解析におけるもう一つの重要な概念として相対生存比があり、疫学研究において広く用られています。Komukai and Hattori (2020)では、同様のアイディアにより、共変量依存打ち切りの下で相対生存比に対する二重頑健推定量を提案しました。さらに、その推測の前提をデータに基づいて確認する二重頑健検定手法を導入しました。
Komukai S and Hattori S (2017) Doubly robust estimators for net survival rates in analyses of cancer registry data. Biometrics 73(1), 124-133
Komukai S and Hattori S (2020) Doubly robust inference procedure for relative survival ratio in population-based cancer registry data. Statistics in Medicine 39, 1884-1900
これらの方法はコホートに対する平均的な量に対する推測法ですが、回帰分析も癌登録データ解析では重要な役割を果たします。Perme, Henderson and Store (2009, Biostatistics)は、ネット生存に対するCox比例ハザードモデルを考え、セミパラメトリックEMアルゴリズムによる推定法を提案しました。しかしながら、その理論的性質は解明されてきておらず、二重頑健推定などに利用する際の障害となっていました。Komukai and Hattori (2023)は、この方法がセミパラメトリック有効推定を与えることを示し、その統計推論の理論的妥当性を示しました。
Komukai S and Hattori S. Asymptotic justification of maximum likelihood estimation for the proportional excess hazard model in analysis of cancer registry data. Japanese J of Statistics and Data Science 6(1), 337-359.