社会科学的な知識や考え方も取り入れながら
多次元的に健康問題に取り組むことが
環境医学の役割です

環境医学とは

大阪大学の環境医学教室はむかし、衛生学教室って呼ばれていました。「衛生学」という "人々がより健康でより長生きできるようにするためにはどうしたらよいか"を考える学問です。疾病予防と健康増進、これが環境医学(衛生学)の目指すところです。

環境医学(衛生学)は社会医学の一分野です。 歴史や文化、精神風土などの自然環境・社会環境も含めて考えなければいけません。 自然科学的な知識や考え方に加え、社会科学的な知識や考え方も取り入れながら、多次元的に健康問題に取り組む学問です。

基礎医学、臨床医学、社会医学、それぞれに担うべき役割がある中で、 環境医学が責任をもって取り組むべきことは、人間と環境が接する部分で生じる問題を解決していくことです。 環境医学教室ではそのための研究を行っています。

あつかうテーマは時代とともに変化

環境医学では、本来満たされていて当然の生活条件の何かが、大多数の個人において満たされなくなることで学問上の課題となって、研究が行われてきました。環境医学では今目の前にある最も必要性の高い課題から研究していくことが求められています。社会の変化とともに環境医学のあつかうテーマも時々刻々と変化し、多様で複雑な社会になればなるほど、環境医学が責任をもって取り組むべき課題も多様になっていきます。

はじまりは 19 世紀のドイツ

衛生学の創始者で「近代衛生学・環境医学の父」と呼ばれているのは、ドイツのぺッテンコーフェル博士です。「ダーウィンの進化論」が盛んだったその時代、彼は「生存競争に充分耐えうるような健康を造る」ことを目指して細菌学に着手しました。そして、生活環境と疾病発生との関係を重視して下水道整備の重要性を説いて、下水道の普及と衛生行政の発展に多大な功績をおさめました。当時は交通や産業の発展とともに、人間の集団行動や移動が活発になった時代だったからこそ、急性伝染病の撲滅が“今、目の前にある最も必要性の高い研究課題”になったと考えられます。その後産業技術が益々発展し、工業発展と国民健康の破壊について考える必要性が高まってきました。そこで次第に、工場衛生学や職業病研究も盛んにおこなわれるようになっていったのです。

日本でもぺッテンコーフェルの時代からさかのぼること200年、豊臣秀吉の命によって太閤下水という排水設備が整えられていました。この画期的な試みは、大坂という街の発展にも大きく寄与したことでしょう。

マックス・ヨーゼフ・フォン ぺッテンコーファー Max Josef von Pettenkofer

マックス・ヨーゼフ・フォン・
ぺッテンコーファー
Max Josef von Pettenkofer

自然科学の枠の中にとどまっていない環境医学。
この先には、飽食の時代であるがゆえの疾病(肥満、糖尿病、高血圧、アトピーなど)や
社会が複雑になったことに起因するこころの疾病(自殺・虐待・ひきこもりなど)など
まだまだたくさんの課題が待ち構えています。
これまで以上に多様な領域に視野を広げ
研究領域も研究手法もさまざまな研究が必要不可欠です。
そんな多彩な研究ができるということが、この研究室の魅力でもあります。

 

生命、生活、生産、
生きる力を衛る学問

「薬より養生」「早寝早起き病知らず」「腹八分目に医者知らず」
こうした諺や格言の中には最近になって科学的根拠が示されてきているものや、これから証明されると予測されるものもあるけれど、なかには本来の意味とは違って使われるようになったもの、文化的・宗教的・政治的な習慣などから生じたもので、科学的根拠のないものもありそうです。しかし、歴史的経験と事実から謙虚に学ぶこともたくさんあるはずです。だからこそ科学的根拠のあるものとないものをしっかり分けて、根拠があるものはその根拠とともに広く普及させ、逆に根拠のない習慣が根拠なきままに広まらないようにする。これも、これからの環境医学が疾病予防と健康増進のために取り組むべき課題なのかもしれません。

「環境医学実習」「医学概論」および「環境医学講義」などを担当しています。
環境保健、産業保健といった伝統的な教育内容に力を注ぐとともに、
疫学を中心とする集団科学の基本概念をしっかりと学んでください。