「HTAi2016に参加して」(吉澤剛)

ヘルステクノロジーアセスメント(HTA)の国際学会であるHealth Technology Assessment international (HTAi)の年次大会が「価値と根拠に沿ったヘルスケアの意思決定」というテーマのもと、2016年5月10日から14日まで東京で開催されました。HTAは「医療技術評価」という名称で知られ、2012年度に創設された中医協の費用対効果評価専門部会で制度化の議論が進められてきました。2016年度は診療報酬改定において試行的導入がなされるというタイミングで日本では初となる大会開催ということで、主催者の強い意気込みを感じます。
 大会最初の2日はワークショップが主体のプレ会合という位置づけで、HTAとは何かという入門的なものから多様な意思決定ツールの紹介など専門的な話題まで複数のセッションが並行して進められました。患者の視点や付加価値について各国の関係者が学びあうというセッションでは、カナダやイギリスのHTA機関の取り組みにおいてプロセスの随所に患者や市民が参画できる機会が設けられており、欧州や台湾の製薬協なども関心を持って患者との連携を模索しているという現状が共有されました。後半の3日間は基調講演のほか、パネルディスカッションや口頭発表が中心の本会議として、多角的な話題提供と議論が繰り広げられました。興味深かったのはHTAにおけるホライズン・スキャニングへの取り組みで、新しい医療技術についての将来的な論点の洗い出しを患者や医療従事者とともに行う活動がイギリスやカナダで進みつつあることです。また、患者の価値をめぐるセッションで印象に残ったのは、心臓発作で死線を彷徨った患者が適正な医療を受けて全快したことをきっかけに患者代表としてHTAに関わるようになったというくだりでした。この大会では全体的に患者団体や医療従事者の参加が少なかったのですが、このセッションは参加者が多彩で、これからのHTAに向けた重要な問題提起をしていることから、ぜひ日本の多くの関係者にメッセージが届くことが期待されます。
 日本版HTAは、医療技術の保険収載の判断材料としての費用対効果評価であり、医療費削減のための一つのツールという認識に傾きがちです。かつてテクノロジーアセスメントが「技術評価」という視点に押し込められていた時代からの教訓を踏まえるならば、より上流における俯瞰的・システム的分析と、患者や市民の有する公共的価値を交えた協働的な評価体制の構築がとりわけ重要になってくると見られます。それはHTAの制度化が始まったばかりの現在だからこそ取り組まなければならない活動ではないでしょうか。会場では日本の企業関係者や研究者の姿も散見されましたが、開催地としては参加者数も多様さも控えめで、各方面への意識啓発や人材育成が今後の課題として浮かび上がりました。

image2