私たちの研究

医学・生命科学研究の発展、および高度な医療の発展は、社会の中で多くの人々に恩恵をもたらしています。その一方で、研究が社会に理解され、医療が信頼されて行われるためには、研究や医療に伴う倫理的・法的・社会的課題(Ethical , Legal and Social Implications ,ELSI)への取り組みが不可欠です。

当教室では、医学・生命科学・医療の発展に伴う課題を分析し、対応策・解決策を提案するための研究を行っています。

これまで生命倫理というと科学・医療の発展を抑制する存在というイメージがあったかもしれませんが、私たちは現場の研究者医療者と、人文社会学系の専門家、および患者さんや市民との協働を促進することで、「ものごとを前に進める」ための活動を行うことを目指しています。

 

1. 医学・生命科学研究の倫理的・法的・社会的課題やポリシーに関する研究

iPS細胞、ゲノム編集などの新しい技術が、再生医療をはじめとする新しい医療や医学研究の発展に役立つとして注目を浴びています。また、超高速シークエンサーの登場により多くの人のゲノムが短時間・低コストで解読できるようになり、研究の大規模化が進んでいます。さらに、このような研究の成果の中にはすでに臨床応用されているものもあります。こうした研究の発展に伴い、倫理的・法的・社会的課題に対する取り組みの必要性はますます高まっています。この対応として、政府ガイドラインの内容、あるいは策定のための体制について調査分析するとともに、国際的な視点も含め、研究現場と密接に関わりながら研究プロジェクトレベルおよび政府レベルでのポリシーについて検討を進めています。

2016年度~2018年度には、日本医療研究開発機構(AMED)の研究費により、ゲノム研究の領域で生じつつある新しいELSIについて研究を行いました。概要および成果についてはこちらのページをご覧ください。また、さまざまな立場の方々との情報共有、対話や議論も大変重要であることから、文部科学省の研究事業の一部として市民公開シンポジウム、研究の倫理審査に関わる方や研究者を主な対象としたシンポジウムやウェビナー(「ヒトゲノム研究倫理を考える会」)、の企画・運営にも関わっています。

関連リンク
文部科研費 新学術領域研究 学術研究支援基盤形成 生命科学連携推進協議会
文部科学省科研費 新学術領域研究 先進ゲノム支援 GSユニット

2. 臨床医療の倫理

「医の倫理学」教室(当教室の前身、2001年~)の発足以来、取り組んできた臨床医療の倫理に関する課題にも取り組んでいきます。大学院生のテーマには、生殖補助医療、アドバンス・ディレクティブ、終末期ケア、スピリチュアルケアなどがあります。最近では、ロボット技術の医療・介護現場への導入に伴う倫理的課題の分析などもテーマになっています。

3. 臨床ゲノム情報の共有等に係るELSIへの対応

ヒトゲノム情報や臨床情報の共有・取扱いでの適切な対応等、臨床ゲノム情報の共有とデータベース構築におけるELSIへの対応や倫理関連の諸問題に対しての研究を行っています。また、GA4GH等を通した国際連携への参画とともに、ゲノム情報共有ポリシー等の策定を目指しています。なお、2016年度より日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け研究を進めています。
概要および成果についてはこちらのページをご覧下さい。

 

関連リンク
AMED臨床ゲノム情報統合データベース整備事業
日本人疾患バリアントデータベース(MGeND)

4. ICT(情報通信技術)を利用した患者主体の医学研究

近年、患者や市民がより主体的に参画する研究アプローチが広がりをみせており、今後さらに重要性が高まると考えられます。我々は、患者・市民とパートナーシップを築きながら進める新しい医学研究の仕組みづくりを目指しています。その実践として2017年12月に、オンライン研究プラットフォームのRUDY JAPANを公開しました。この研究を進めるために、難病・稀少疾患の患者、複数の疾患領域の専門家、医療情報やICTの専門家など多様な人々と協働しています。

関連リンク
RUDY JAPANトップページ
(詳細はRUDY JAPAN infoRUDY JAPAN Facebookページもご覧ください)

5. 医学・医療のためのICTを用いたエビデンス創出コモンズの形成と政策への応用

医療・医学研究の政策に関しても、患者視点を取り込むことの重要性が認識され始めています。我々はその仕組みづくりと政策への実現可能性を高めたエビデンスの創出を行うことを目的に、ICTを介し、患者・医学研究者・政策担当者などのステークホルダーが政策形成に有用な指摘や提案を継続的に議論・検討する場「エビデンス創出コモンズ」を構築します。

コモンズプロジェクトの紹介

6. AI(人工知能)技術のヘルスケア領域への実装・利活用に関するステークホルダー・エンゲージメント

ヘルスケア領域では、診療技術の高度化や、臨床現場の業務負担軽減に向け、AIの開発と普及に大きな期待が寄せられています。AIのような新しい技術の導入に際し、市民・患者を始め、医療従事者、AIの開発者などのニーズの把握や、その政策への反映は、質と安全性の向上だけでなく、AI技術に対する信頼を築くために欠かせないものです。私たちは、ヘルスケア領域におけるAI 技術の実装・利活用に関する意思決定に、ステークホルダーが参画し、貢献するための「場」の構築を目指しています。この研究は、JST-RISTEX(※1)及び英国ESRC(※2)の支援を受ける日英共同研究プロジェクトとして進めています。詳しくはプロジェクトのウェブサイトをご覧ください。 

※1 国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター
※2 Economic and Social Research Council

7. 患者市民参画に基づくヒト幹細胞由来の生殖細胞研究のELSI対応とガバナンス(G-STEPプロジェクト)

幹細胞からシャーレの中で精子や卵子といった生殖細胞を作り出す研究(IVG研究)について、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の抽出と対応策の検討を行うプロジェクトです。IVG研究は、体内で起こるため研究が難しかった現象を再現することで、発生にかかわる仕組みを明らかにする有益なものといえます。一方、将来、ヒトで生殖細胞作製が成功した場合、子供を誕生させることの是非などの課題が生じ得ます。研究を進める際には、市民パネルをはじめとする非専門家の参画を得て、基礎研究段階にある先端医科学研究の課題を多様なステークホルダーとともに検討する手法を、実践を通して提案します。
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