「合同班会議」
9月20日~22日にかけて、特定領域研究「ゲノム」の合同班会議に参加してきました。特定領域研究「ゲノム」(http://genome-sci.jp//) はゲノムの基礎研究に主軸をおく文部科学省科学研究費の研究プロジェクトです。本年度の合同班会議では160名を超える班員による研究成果の発表がありました。私も生命文化学(加藤研)の実践・研究の1つ「ゲノムひろば (http://hiroba.genome.ad.jp)」について、ポスターセッションでの発表を行いました。
私がこの班会議に参加したのは約5年ぶりです。5年前と比べ、私が今回の班会議で感じたゲノム研究の現状について紹介したいと思います。
まず一番強く感じたことは、私たちが行っている「ゲノム研究と社会との接点」の研究が増えたことです。そして、現場のゲノム研究者にもこのような研究が認知され始めたことです。大多数の研究者が関心を持っているとは言い切れませんが、今回の班会議では想像以上に多くの研究者から「ゲノムひろば」についての建設的な意見をいただきました。
二つめはゲノム研究で解析されている生物が非常に多彩になったことです。この5年でゲノムの解析技術も飛躍的に向上し、ショウジョウバエやマウスといった代表的なモデル生物だけでなく、多種多様の生物のゲノムが網羅的に解析されていました。この数の増加は予想以上でした。また、この生物の多様性からは、「ゲノム」という特定領域の研究成果が様々な分野での発見に貢献する可能性を感じました。
三つ目はゲノムの網羅的な解析にドライな研究、つまりコンピューターのシステムを用いた解析がよりダイレクトに加わっていたことです。実際の生物に触れる実験(ウエットな実験)とドライな実験との間には、人材の専門性の違いなど多くの壁があります。しかしこの「ゲノム」特定領域の中ではその壁が壊されつつあることを感じました。
最後に、「ゲノム」という特定領域全体について感じたことを紹介します。5年前は網羅的な解析が、大きなプロジェクトでなく、一つの研究室からでも実現可能になり始めた時代でした。その頃、生命科学の研究では「ゲノム」特定領域に限らず、網羅的な解析の研究が増加し始めていました。つまり、ある生命現象に関わる因子をゲノム情報から全て探し出してこようとする研究が増えたのです。そして現在、「ゲノム」特定領域では「1.網羅的な研究」「2.網羅的な研究から得られた一つの因子を解析する研究」「3.網羅的な研究から得られた多数の因子の働きを統合して理解する研究」の三つが混在しています。どれも生命科学の進展には欠かせない研究です。今後どのような研究が「ゲノム」特定領域の特色を出し、生命科学の進展に寄与するのか。どこに重点を置くのかといった研究の方向性を決めることは案外難しそうです。
(白井哲哉)