ゲノム研究の社会的・倫理的課題に関する国際会議

4月27日から5月6日まで全部で10日間、カナダと米国での2つの国際会議に出席するため海外に出てきました。       

4月28日-30日 カルガリーにて(主催:Genome Canada)       
“International GE3LS Symposium 2008 Navigating the Changing Landscape”       
(カナダでは、ELSIではなく、GE3LSと言います。ジェルズと発音、3は肩文字)       

5月1日-3日 クリーブランドにて(主催:NIHのNHGRI)       
“Translating ELSI : Ethical, Legal and Social Implications of Genomics”        

いずれの会議も、それぞれの国でゲノム研究の倫理的・法的・社会的課題に関する研究と活動を行っている専門家が一同に会するという大きなものでした。さらに1割~2割程度の海外からの出席者も加わって、参加者数はいずれも200人近かったのではないでしょうか。       

僕はカナダでは海外から招かれた講演者の一人として、そしてアメリカでも口頭発表で、日本のELSIの活動の歴史と現状(伊東さんの研究、ゲノムひろば、写真展などを含む)を報告してきました。(東島さんも米国の会議で口頭発表。とてもしっかりとした発表でした。)    

どちらの会議にも共通した話題として、バイオバンクの体制構築や運営にどのように市民(試料提供者)の意見を取り入れるか、消費者に直接販売される遺伝子検査(Direct-to-Consumer genetic testingと言う)をどのように規制するか、といったゲノム研究の進展に伴う新しい課題が大きく取り上げられていました。さらには、科学的・医学的研究と社会面の研究をいかに融合させるか、研究の成果をどのように政策に反映されるかといった、以前から議論されている話題も取り上げられており、この分野の長い歴史と層の厚さを持つ両国でもいまだに苦労している課題なのだということがよくわかりました。        

2つの国での会議に出て印象的だったのは、カナダのほうが世界の状況をしっかりと話題にしており、米国は「国際会議」と名づけているけれども米国内の話題が中心になっていることでした。カナダの会議では一日目の午後に、インド、シンガポール、マレーシア、英国、中国、オランダ、日本、南アフリカ、フランス、オーストラリア、米国という11の国から一人ずつが各国の状況について報告するというセッションが設けられ、一挙に世界の状況がわかりました。        

一方、米国での会議では、「race」「health insurence」といった米国が抱える問題が何度も出てくるのに少々驚いたというのが正直なところです。しかし、メディア研究(肥満遺伝子がどのようにメディアで描かれているか他)、意識調査やフォーカスグループインタビューなどを通したpublic engagementの研究などは、データの解析の仕方にしても、プレゼンテーションにしてもレベルが高く、自分たちはまだまだ努力が必要だという刺激(とプレッシャー)を与えてもらいました。        

どちらの会議でも、芸術と科学研究の融合、科学教育といった話題も取り上げられており、科学コミュニケーション(科学の表現や教育を含む)とELSIが自然につながっていることを再確認できたのもうれしいことでした。       

残念ながら日本からの参加者は、カナダでは僕一人、アメリカでも数名でした。法学や社会学、文化人類学といった分野出身の人々が当たり前のように会議に参加し、発表しているのを見て、日本でもそうした人たちがもっと増えてほしいと思いました。(うちの研究室でも論文入試で文科系から受験できるので、是非増えてほしいです)      

長くなったので、この辺で。