追悼 Sir John Gurdonさん 2025年10月8日

英国ケンブリッジ大学のSir John Gurdonさん(2012年に山中伸弥先生とノーベル賞を共同受賞)が、昨日(2025年10月7日)、92歳でご逝去されました。 謹んで哀悼の意を表するとともに、ご遺族の皆様に心よりお悔やみを申し上げます。

私は、1990年から1993年までの約4年間、Gurdon研究室にポスドク研究員として滞在し、当時できたばかりの研究所(現在のGurdon研究所)の活気あふれる雰囲気の中で研究に携わることができました。現在、携わっている研究分野は当時の発生生物学とは異なるものですが、研究をする(学問の世界で生きる)上での心構えや、研究所や研究室の運営方法については、彼に学んだことが実に多くあります。

Gurdonさんは、どんなときでも偉ぶらず、はるかに年下の若手に対しても、常に気さくに接する方でした。毎日の研究生活では、朝の10時半ごろと午後の3時半ごろ、「ティータイム」を必ずとり、研究所のティールームで、まずは週末のガーデニングの話を実験助手の方々などとも楽しそうに話してから、研究グループのメンバーとはその週の実験などの話をするのが、日々の生活でした。別のグループの若手に声をかけて、「君はどんな研究をしているの?」と対話をされることもしばしばありました。実験をただたくさんすればよいのではなく、しっかりと自分が取り組む実験のデザインをしっかりと考えてから手を動かす、考えることを大切にする文化についても学びました。

思い出深いことの一つは、「私はチェアマンであって、ディレクターではない」、とおっしゃったことです。(I am the Chair of the Institute, not the Director)研究所の若手PIの自主性を大切にし、気軽に意見を交換しながら、研究所を運営する、その伝統は今に至るまで、Gurdon研究所に受け継がれていると思います。

また、ラボ内であろうが、ティールームであろうが、議論をしている際に、すぐに「What do you think?」と質問をされるもの懐かしい思い出です。彼が何か実験のアイデアを考える、すると、即座に、「What do you think (about this plan)?」と聞かれる、そこで、「私はもっと別のことを考えるとか(I have a slightly different idea.)」とか、「その意見には同意しない(I don’t think so.)」と言うと、普通であれば、気分を害されることもあるところ、実にうれしそうな顔をして、「So, why do you think so?」などと言いながら、またああでもない、こうでもない、と議論を続けていくのです。私は、この”Gurdonian conversation” (と私が勝手に名付けた)やり取りを4年間繰り返し経験することで、ほとんどの会話や議論の場(それは現在の倫理とガバナンスの仕事の場を含む)で、交わされる意見や議論を聞きながら、自分の意見を言えるようになりました。

彼のラボ、そして、彼の周囲からは、多くの人が成長し、世界に羽ばたいています。九州大学農学研究院で研究されている宮本圭さんは、私よりもずっとあとに、Gurdon研で研究員をされました。また、Gurdon研の一つ上のフロアには、今年、京都賞を受賞されたAzim SuraniさんやマウスES細胞を樹立され、ノーベル賞を受賞されたMartin Evansさんのラボがありました(Surani研は今もGurdon研究所にあります)。Suraniさんのラボには、私たちが今、進めているG-STEPプロジェクトの共同研究者で、IVG(in vitro gametogenesis)研究のリーダーである斎藤通紀さんや林克彦さんも滞在されました。

今、世界中で活躍している多くの研究者の皆さんが彼のことを悼んでいるでしょう。私にとって、研究者としての基礎を作る時期にさまざまなことを教えていただいたGurdon さんに感謝するとともに、安らかにお眠りになることをお祈りします。

ケンブリッジ大学ガードン研究所によるアナウンス
https://www.gurdon.cam.ac.uk/nobel-laureate-professor-sir-john-gurdon-dies-aged-92/