大学院生の村岡悠子、小門穂兼任准教授、加藤和人教授による論文が公開されました

当研究室の村岡悠子氏(博士課程大学院生)、小門穂兼任准教授(大阪大学 大学院人文学研究科)、加藤和人教授は、日本の生殖補助医療(ART)において男性の同意が問題となる場面を、国内裁判例の分析という手段を用いて明らかにするとともに、同意欠如の背景として示唆される要素や侵害される権利の具体的内容を調査し、紛争予防のために必要となる方策を検討しました。

日本では近年、「無断受精卵移植事件」と称される事件をはじめ、ARTにおける男性の同意の有無が問題になり訴訟に至る例が散見されます。そこで本研究では、男性の同意に関連して生じた問題を総括的に把握することを試みました。その結果、男性の同意が問題になるのは、精子提供時、融解胚移植時、精子または凍結胚廃棄時の三場面に分類可能であること、同意の欠如により男性の財産権及び自己決定権が侵害されることを明らかにしました。そして、この問題の背景に、ARTと同意に関する法規制の欠如に加え、日本のARTを取り巻く場面や労働環境における男女のステレオタイプな役割分担の存在が示唆されることを示しました。さらに、生殖の場面における男性当事者の自己決定権(リプロダクティブ・ライツ)の議論の乏しさも関連することを指摘しました。

先端医療技術の発展に伴い、生殖に関する男性の権利が問題となる場面はさらに複雑さを増すと考えられます。生殖における男性当事者の自己決定権の内容を明らかにする議論が必要であり、この試みは、翻って、男性当事者の義務の範囲を明確にする議論にほかならず、女性や子の権利と対立するものではなく、子を持ちたいと願う女性の保護や子の福祉を確保するためにも重要であると結論づけました。

本研究成果は、2024年1月19日(木)に、国際誌「Asian Bioethics Review」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:The Role of Male Consent in Assisted Reproductive Technology Procedures: an Examination of Japanese Court Cases

著者名:Yuko Muraoka・ Minori Kokado · Kazuto Kato

論文サイト:https://doi.org/10.1007/s41649-023-00274-1