患者の皆様へ・診療内容
1.スタッフ
科長(兼)教授 竹原 徹郎
その他、教授2名、准教授1名、講師2名、助教14名、医員47名、病棟事務補佐員1名、外来事務補佐員2名 (兼任を含む。また特任、寄附講座を含む。)
当該診療科は、2005年6月に旧1~3内の消化器グループが統合して生まれた講座「消化器内科学」のメンバーより構成されています。(2023年10月時点)
2.診療方針
胃腸疾患ならびに肝胆膵疾患をはじめとし広く消化器疾患を診療対象にし、高度先進医療の実践を目標にしています。 また、極めて質の高い医療技術を基盤とし、患者さまやご家族の考えを尊重する全人的な医療を心掛けています。
3.診療体制
- 外来診察:内科東外来にて平日午前・午後に5診察室(1診~5診)で専門外来を行っています。また、6診(午前)では初診外来を行っています。(詳しくは、担当医表のページへ)。
- 病棟業務:東11階病棟の50床が消化器内科の病床になります。病棟体制は11名の主治医を中心に診療を行い、初期研修医に対して主治医がマンツーマン体制で指導しています。さらに5名のシニアライター、病棟医長によって万全の診療体制を敷いています。
- 検査スケジュール:当科では毎日定期的に検査を行っています。当科での検査のみならず、必要に応じて他科の入院患者様に対しても検査・治療を随時行っています。(詳しくは、検査スケジュール表のページへ)。
- 回診、カンファレンス:連携のとれたチーム医療を実践するため、定期的に回診、カンファレンスを実施しています。(詳しくは、回診、カンファレンス表のページへ)。
4.診療内容
- 外来診療
- 入院診療
- 検査・治療件数
- 当科の取り組み
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令和4年度の外来患者延べ人数は新患849名、再診39,093名、合計39,942名にのぼります。主な疾患の内訳は診療実績のページをご覧ください。その他、消化管悪性リンパ腫、消化管間質腫瘍、漏出性胃腸症、腸管ベーチェット、腸管アミロイドーシス、偽性腸閉塞症、自己免疫性膵炎、消化管・膵神経内分泌腫瘍、ウイルソン病、へモクロマトーシス、先天性肝線維症など、幅広い消化器疾患の診療を行っています。
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令和4年度に延べ1,343名の患者が入院治療を受けられました。主な疾患の内訳は診療実績のページをご覧ください。肝細胞癌、胃癌、膵癌をはじめとする悪性疾患の症例を数多く診療しています。また、良性疾患では、慢性肝疾患や炎症性腸疾患の症例が多いことが特色です。
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令和4年度に当科として施行した主な検査・治療件数を診療実績のページに掲載しています。この他にも内視鏡的止血術、食道狭窄バルーン拡張術、内視鏡的総胆管結石除去術など幅広い診療を行っています。さらに放射線科にて肝動脈化学塞栓術、バルーン閉塞下経静脈性逆行性胃静脈瘤塞栓術、経皮経肝静脈瘤塞栓術、部分脾動脈塞栓術、経頸静脈的肝生検などを行っています。
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肝疾患領域では肝細胞癌に対してラジオ波焼灼療法やマイクロ波焼灼療法、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤、TACE、放射線療法などによる集学的治療を行なっております。胆膵領域では超音波内視鏡下検体採取(EUS-FNA)後穿刺部播種の早期発見を目指した多施設介入研究や局所膵癌の実態調査のための多施設研究を進めています。消化管領域では、早期消化管癌(食道癌、胃癌、大腸癌)に対する内視鏡治療の適応拡大を目指した臨床試験や低侵襲医療の開発を進めています。また、進行消化管癌に対する集学的治療を実践しています。さらに、炎症性腸疾患においても新規分子標的治療などの臨床試験を進めています。
5.治療方針・成績
- 肝疾患
- 消化管疾患
- 胆道系・膵疾患
- 1)ウイルス性肝炎
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B型慢性肝炎に対しては、核酸アナログ治療とインターフェロン(IFN)治療が中心です。核酸アナログはHBVが増殖する経路を阻害することにより、IFNはHBVが感染した肝細胞を直接攻撃することにより、抗ウイルス効果を発揮します。核酸アナログでは、エンテカビルが第一選択です。IFN治療では、ペグインターフェロン(Peg-IFN)の48週投与を行います。また、抗ウイルス療法ができない症例の場合は、活動性肝炎の抑制を目指した肝庇護療法として、ウルソデオキシコール酸やグリチルリチン製剤を投与します。
C型慢性肝炎に対しては、テラプレビル/Peg-IFN/リバビリン併用療法、Peg-IFN/リバビリン併用療法が中心です。テラプレビル/Peg-IFN/リバビリン併用療法はGenotype1型症例のみ保険適応があり、テラプレビル/Peg-IFN/リバビリン12週投与ののち、Peg-IFN/リバビリン12週投与(合計24週投与)を行います。Peg-IFN/リバビリン併用療法の治療方針は、画一の治療ではなく、Genotypeやウイルス量、治療の反応性に応じて行っています。Genotype1型高ウイルス量症例では、48週投与が標準的ですが、ウイルス陰性化時期によって治療期間を変更しています。治療開始後12週でHCV RNAが陰性化した症例は予定通り48週投与とし、12週~36週でウイルス陰性化した症例では72週の長期投与を行っています。逆に36週でHCVRNAが陰性化しなければ治療を中止します。一方、Genotype1型高ウイルス量以外の症例では、24週で投与終了としています。また、初回投与の低ウイルス症例にはリバビリン併用療法の保険適応がなく、IFN単独療法となりますが、このうち、治療開始後8週以降にウイルスが陰性化した場合は、24週投与で治療終了すると、ウイルスが再燃する症例が多いため、可能な限り、IFN長期投与を行います。逆に、治療開始8週の時点でウイルスが陰性化せず、また副作用などの理由で24週を超える長期投与が困難な場合には、この時点で治療中止とし、Peg-IFN/リバビリン併用(Genotype1型症例にはテラプレビル/Peg-IFN/リバビリン併用)による再治療を考慮しています。 C型肝硬変に対しては、Peg-IFN/リバビリン併用療法(Genorypeに関係なく48週投与)、Peg-IFN少量長期投与などを行います。また、IFN療法が無効あるいは副作用でできない場合、肝庇護療法としてウルソデオキシコール酸やグリチルリチン製剤を投与し、これらの薬剤でもALTの改善が得られない場合には瀉血療法を行っています。今後、Peg-IFN/リバビリン併用療法に第二世代のNS3プロテアーゼ阻害剤の併用や、IFNを用いない、NS3 プロテアーゼ阻害剤とNA5A 阻害剤などの新薬との併用がなされる予定です。
C型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法の治療指針
[Genotype1型高ウイルス量]

(2013年2月6日更新)
- 2)肝細胞癌
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当院では肝がんの症例は入院前に、消化器内科、消化器外科、放射線科の専門医よりなるcancer boardにて一例ずつ検討し、手術、局所治療、IVR、放射線量療法等の治療方針を決定しています。消化器内科病棟での治療は肝動脈塞栓術、動注化学療法、ラジオ波焼灼術(RFA)が中心となりますが、特にRFAに関しては積極的に行っており、経皮的にエコーガイド下に施行困難な症例でも、人工胸水・腹水下、CTガイド下、腹腔鏡下あるいは術中にて、安全に施行しています。また国内で利用できるRFA焼灼装置をすべて利用でき、局在や大きさにより使い分けているが、5cm大の腫瘍に対しても焼灼可能です。進行肝癌に対してもLow dose FPや5-FU+インターフェロンなどの動注化学療法を積極的に行っています。
当院での肝細胞癌症例の5年生存率 (1993年9月~2003年7月) は、TNM Stage I期90.0%、II期 53.2%、III期 42.2%であり、 JIS scoreでは 0点87.7%、1点65.4%、2点52.2%、3点24.3%です。
- 3)劇症肝炎
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当院では劇症肝炎やLOHFの患者様は、消化器内科、消化器外科、小児外科、麻酔科、感染制御部、高度救命センターの専門医からなる劇症肝炎ワーキングにて治療方針を決定し、高度救命センターにて全身管理をしながら、抗ウイルス療法、ステロイドパルス療法。血漿交換、持続的血液濾過透析など集学的な治療を行っています。また、肝臓移植の適応がある場合、いつでも行えるように入院当初より並行して準備を行い、内科的な治療で救命困難な場合、直ちに消化器外科にて肝臓移植を施行しています。
- 1)消化管癌(食道癌、胃癌、大腸癌)
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消化管癌に対しては、色素内視鏡検査、NBI(Narrow Band Imaging)併用拡大内視鏡検査、超音波内視鏡検査、胸腹部造影CT検査、PET-CT検査などを用いて、正確に臨床病期診断を行い、内視鏡カンファレンスや他診療科合同カンファレンス(消化器外科、放射線治療科、病理診断科など)において治療方針を決定しています。
内視鏡的切除にて治癒切除が見込める早期消化管癌(食道・胃・大腸)癌に対しては内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を中心とした内視鏡的切除を積極的に施行しています。内視鏡治療による治癒切除が見込めない粘膜下層浸潤癌に対しては、外科手術だけでなく根治的化学放射線療法を選択肢として提示し多くの患者さんに受けていただいています。また、全周性食道表在癌や粘膜下層浸潤癌に対して、より低侵襲で治療効果の高い新規集学的治療法の開発を目指して様々な臨床試験に取り組んでいます。早期胃癌に対してはESD後にヘリコバクター・ピロリ除菌を行い、その後の異時性多発癌抑制を目指すとともに、異時性多発癌早期発見のためのサーベイランス法の確立やハイリスク患者さんを絞り込むためのバイオマーカーの探索にも取り組んでいます。技術的に難しく合併症率が高いとされる十二指腸腫瘍や瘢痕病変に対しても浸水下粘膜切除術など様々な工夫をしながら、治療成績の向上を図っています。
手術不能進行・再発消化管癌に対しては、化学療法や免疫療法を用いて、積極的に治療に取り組んでいます。特に患者さんの病変の遺伝子変異を調べることにより、それぞれの患者さんに適した薬剤を選択しています。また、がん遺伝子パネル検査により網羅的な遺伝子変異を調べることで、ゲノム医療を実践しています。
消化管癌の診療については、お住まいの近隣にある診療所・クリニック・病院との診療連携が非常に重要であり、しっかりと情報共有しながら診療に取り組んでいます。
- 2)炎症性腸疾患
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炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)は下痢、腹痛、血便などを主訴とする原因不明の腸の慢性疾患で、厚生労働省指定の特定疾患(難病)です。欧米に多い病気と考えられていましたが、近年日本でも罹患される患者さんの数が急速に増加してきました。発症年齢が若い患者さんが多く、病状によっては入退院を繰り返し、手術が必要になることもあり、根本的治療法が存在しないことから現在でも大きな問題点を抱えています。当院では、潰瘍性大腸炎の患者さまには5-ASA製剤であるペンタサ、サラゾピリンに加え、炎症増悪期にはステロイド剤の投与を行います。また、ステロイド抵抗性の方やステロイドの副作用を軽減する必要のある方には、白血球除去療法(遠心分離法、L-CAP、G-CAP)も積極的に行っています。
クローン病では、食事内に含まれる脂肪分などの食餌抗原により増悪すると考えられており、5-ASA製剤の他に、エレンタールなどの経腸療法が効果的です。また、ステロイド剤や免疫抑制剤の他に、2002年5月より抗TNFα抗体(商品名:レミケード)が認可され、当科では積極的にこれを用いて高い治療成果を上げており、患者さまの生活の質(Quality of life)を改善することにも配慮しています。また症例によっては、患者さまの同意を得た上で治験薬の投与など新しい治療法の開発にも取り組んでいます。クローン病に対しては世界に先駆けて抗IL-6受容体抗体療法の治験も行い、良好な治療成績を報告しました。今後も炎症性腸疾患の患者さまに対し、最先端の治療を行っていきたいと考えています。
- 1)膵臓癌
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膵癌は本邦で死亡率第4位の難治癌で、患者数は増加傾向にあります。膵癌の多くは切除不能状態での診断となりますが、早期診断を目指した超音波内視鏡(EUS)や内視鏡的逆行性膵管造影検査(ERCP)および膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)をはじめとするハイリスク群に対するサーベイランスに取り組んでいます。切除可能性については消化器外科・放射線科が参加するCancer boardで決定しています。切除可能あるいは切除可能境界の場合は当科で病理診断や胆管・十二指腸閉塞に対するステント治療などを行い、消化器外科が取り組んでいる術前化学療法を基軸とした治療戦略に引き継いでいます。切除不能の場合はEUSを用いた組織採取(EUS-TA)によるがん遺伝子パネル検査を見越した検体採取を迅速に行い、GnP療法やmodified FOLFIRINOX療法の導入を行っています。遠隔転移を伴わない局所進行症例では、一定期間遠隔転移が出現しないことが確認できた場合に化学放射線療法の追加や、血管浸潤が解除された場合にConversion手術も検討します。遠隔転移を伴う膵臓癌の生存期間中央値は概ね9-11か月程度という報告が一般的ですが、当院で集学的治療を行った局所進行切除不能膵癌の局所進行切除不能膵癌の生存期間中央値は23.8か月でした。また当院はがんゲノム医療中核拠点病院であり、治療選択肢が多くない膵臓癌では積極的にがん遺伝子パネル検査や検査結果に基づく受け皿試験も行っています。膵癌で問題となることが多い胆管閉塞に対して、通常のERCPでの対応が難しい場合には、超音波内視鏡下胆道ドレナージ術(EUS-BD)も行っています。
- 2)胆道癌
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胆道癌は本邦で死亡率第6位の癌で、黄疸が診断契機となる場合が多いです。ERCPを基軸とした病理診断とともに、癌の進展範囲を調べるための胆管生検やリンパ節に対するEUS-TAを行っています。また進展範囲の診断に難渋する場合には経口的胆道鏡も行うことがあります。最終的に切除可能かどうかの判断は病変の進展範囲だけでなく、患者因子・施設因子も考慮されますので、消化器外科・放射線科が参加するCancer boardで詳細に検討し、切除可能な場合は消化器外科に引き継いでいます。切除不能な場合は当科でGCD療法(ゲムシタビン・シスプラチン・デュルバルマブ)を中心とする化学療法を導入しています。胆管癌で問題になることが多い胆管閉塞に伴う胆管炎に対しては、ERCPでステント留置を行っています。胆道癌の中でも病変の主座が遠位胆管の場合はカバー付きの金属ステントを、肝門部胆管の場合はVater乳頭から出ないプラスチックステント(インサイドステント)を選択し、抜去交換が可能な状況とすることを基本としています。胆道癌はがん遺伝子パネル検査で治療対象となる遺伝子変異がみつかりやすい癌腫ということが近年報告されてきており、EUS-TA・ERCP下の生検・肝生検などを行って積極的にがん遺伝子パネル検査を提出しています。
- 3)自己免疫性膵炎・IgG4関連硬化性胆管炎
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これらは高齢者に多い良性の炎症性疾患で、正確に診断ができれば手術を行う必要がない疾患です。しかし、限局性の膵腫大や胆管壁肥厚が膵癌や胆道癌と類似した画像所見を呈することがあり、悪性腫瘍ではないことを病理学的に精査するためにEUS-TAやERCPによる検体採取を行います。癌でないことが確認され、無症状の場合は経過観察を行います。ただし画像検査等が非典型的な場合には診断的治療としてステロイドミニパルスを行い、病変が悪化するかを短期間で見極めて、経過観察するか決定する場合もあります。典型的な自己免疫性膵炎・胆管炎で黄疸や腹痛等の症状がある場合にはステロイド療法を行います。ガイドラインでは0.6mg/kgの用量で行われることが多いですが、少量のステロイド(0.2mg/kg)であってもガイドライン推奨量と遜色のない十分な治療効果が得られることが多く、副作用の懸念からもあり当院では0.2mg/kgと少量ステロイド療法を行っています。ステロイド導入後は0.1mg/kgまで漸減の上で3年を目途に長期維持投与を行うことを基本としています。
- 4)膵神経内分泌腫瘍
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神経内分泌腫瘍は全身のさまざまな部位にできますが、約6割を占めるのが膵臓や消化管(胃・大腸・小腸など)の腫瘍で、膵・消化管神経内分泌腫瘍と呼び、年間10万人あたり3-5人に発症する希少疾患です。本邦で最も多いのは直腸原発で、次いで膵臓原発の神経内分泌腫瘍となっています。画像的に膵神経内分泌腫瘍が疑われる場合はEUS-TAや肝生検をはじめとする病理検査で診断を行います。組織学的(免疫染色含む)検査で神経内分泌腫瘍か神経内分泌癌かの違いや、核分裂像(増殖能力の指標)によるGradingを行って治療方針をCancer boardで決定します。切除可能な範囲に病変がある場合には原則として外科手術が適応になりますが、並存疾患や全身状態に問題がある場合や増殖能が低く小病変の場合には経過観察を行うこともあります。切除不能な場合は薬物療法(ソマトスタチンアナログ・エベロリムス・スニチニブ・ストレプトゾシンなど)が中心となりますが、その適応は増殖能や腫瘍量に応じて判断しています。また肝転移に対する経カテーテル的塞栓術や、病勢制御されていた場合には腫瘍のvolume reductionを目指した減量手術を行うこともあります。さらに近年、放射性核種標識ペプチド療法(Peptide receptor radionuclide therapy;PRRT)がソマトスタチン受容体(SSTR)陽性神経内分泌腫瘍の治療として保険適用となり、当院では専用病床で実施しています。存在診断やPRRTの適応判断のためのオクトレオスキャン(SSTRシンチグラフィー)を行う場合があります。膵神経内分泌腫瘍の診断・治療には内科・外科・放射線科をはじめとして集学的治療が必要であり、それらを決定するCancer boardも定期的に行うなど、診療体制が整っています。
6.その他
日本消化器病学会認定施設
指導医 8名 専門医41名
日本消化器内視鏡学会認定施設
指導医6名 専門医32名
日本肝臓学会認定施設
指導医6名 専門医17名
日本内科学会認定施設
指導医11名 専門医16名 認定医48名
(2024年5月時点)


