大阪大学 消化器内科学 自主臨床研究
研究課題 | C型慢性肝炎患者に対する抗ウイルス療法における宿主遺伝子多型の関与の研究 |
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実施期間 | 2019年12月13日まで |
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研究機関 | 大阪大学 消化器内科学 |
主任研究者 | 竹原 徹郎 |
研究目的 | 日本全国でC型慢性肝炎の方は約200万人いると考えられています。中には肝機能が正常で、肝臓の病気も進まない方がおられますが、約7割の方は無症状のまま肝臓の病気が進行し、肝硬変や肝癌の原因となります。現在、日本の肝癌の方のうち約8割はC型肝炎から発生しています。このような病気の進行をくい止めるためには、C型肝炎ウイルス(HCV)を排除することが最も効果的です。従来、我々の体にはウイルスを排除する免疫機構が備わっており、たとえばインフルエンザウイルスは、強力な害のあるウイルスですが、一度治ってしまえばウイルスは完全にわれわれの体から排除できます。ところがHCVは巧妙にその免疫機構の監視の目をすり抜け、慢性のウイルス感染が持続してしまいます。 現在、保険診療で認められているC型肝炎に対する治療法のうち、最も効果が高いのはペグインターフェロンとリバビリンを用いた治療です。このペグインターフェロン・リバビリン併用療法でも、最終的にHCVを排除できるのは約50%で、残りの50%の方は依然としてHCVが残り、肝硬変から肝癌へと病気が進んでいく可能性があります。HCVが排除されない50%の患者さんの中でも、治療によってHCVが全く減少しない無反応(Non responder、NR)の方が全体の約10%を占めています。 最近のGWAS研究から、このNR例の患者さんでは、IL28Bという免疫反応に関係する因子の遺伝子に特定の変異があることが分かりました。IL28B遺伝子の特定の箇所(rs809997)の塩基がT(チミジン)からG(グアニン)に変わっている患者さんは、IL28Bの産生が低く、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法を行っても、NRとなる確率が高いことが分かりました。したがって、治療前にIL28BのSNPを調べれば、NRとなる確率の高い患者さんを見つけることが出来、効果の期待しにくい治療を長期間にわたり負担していただく必要がなくなります。 また、これまでの研究から、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法では、両薬剤の投与量が少なくなると、治療効果が悪くなる、すなわち、HCVの排除が得られないことが分かっています。C型慢性肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法では、約30%の患者さんでリバビリンの副作用による溶血性貧血がみられます。貧血が進行するとリバビリンの投与量を減量しなくてはなりませんが、投与量が少なくなることによって、治療効果が悪くなる可能性もあります。最近のGWAS研究から、リバビリンによる溶血性貧血が起こりにくい患者さんでは、ITPA(Inosine triphosphate pyrophosphatase)という、体内で薬物などを分解する酵素に関係する因子の遺伝子に特定の変異があることが分かりました。ITPA遺伝子の特定の箇所(rs1127354)の塩基がC(シトシン)からA(アデニン)に変わっている患者さんは、ITPAの働きが悪く、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法を行っても、あまり貧血が進まないことが分かりました。逆にITPA遺伝子に変異のない患者さんでは、ITPAの働きが良いため、貧血が進みやすいことも分かっています。したがって、治療前にITPAのSNPを調べれば、抗ウィルス療法中に貧血が進みやすい患者さんを見つけることが出来、あらかじめリバビリンの投与量を調節したり、貧血を改善する薬剤を投与することができる可能性があります。また、貧血が進みにくい患者さんには高用量のリバビリンを投与することができる可能性があり、薬剤投与量の増加によってHCVを排除出来る可能性が高くなることも考えられます。また、今後、保険認可が予定されているプロテアーゼ阻害剤とペグインターフェロン・リバビリンとの併用療法では、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法よりもさらに貧血が進行し、重症になることが報告されています。プロテアーゼ阻害剤・ペグインターフェロン・リバビリン併用療法では、さらに貧血が進みやすい患者さんを予測することは重要です。今回の研究によって、IL28B遺伝子多型と抗ウイルス療法の治療効果との関連、ITPA遺伝子多型と溶血性貧血について詳細に研究することで、今後、患者さんの体質に合わせた治療を提供できる可能性があります。 本研究では、抗ウィルス療法を施行する(施行した)C型慢性肝炎の方を対象として、IL28B遺伝子SNP、ならびにITPA遺伝子多型のタイピングの解析を行い、治療開始後の溶血性貧血、リバビリン投与量、治療効果との関連を明らかにすることを目的としています。 |
対象 |
目標症例数:1200例 適応基準: 1)年齢は20歳以上 2)HCV抗体陽性、HCV RNA陽性のC型慢性肝炎・肝硬変の患者さん 除外基準: 1)観察期間開始前1年以内に抗ウイルス剤(インターフェロン製剤、リバビリン製剤)による治療を受けた患者さん 2)妊娠中、授乳中、妊娠を予定している患者さん 3)自己免疫性疾患を持つ患者さん 4)本臨床研究開始前に画像検査(エコー、CT、MRI、FDG-PETなど)によって、その他の悪性腫瘍に罹患していると診断されている患者さん 5)重篤な出血傾向を持つ患者さん(プロトロンビン時間50%未満、血小板30,000/ul未満) 6)医師、責任医師が不適と認めたもの |
研究方法 | C型慢性肝炎に対して、抗ウィルス療法の予定となったら、治療開始前(外来受診時または入院後)に、約10mlの静脈血採血を1回のみ行います。採取した血液の一部からDNAを抽出します。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)という方法を用いてDNAを増幅し、IL28B遺伝子の特定の個所(rs809997)、ITPA遺伝子の特定の箇所(rs1127354)の塩基配列を調べます。採取したリンパ球を刺激物質(ポリICなど)で刺激して、リボ核酸(RNA)を抽出します。そのRNAを用いて、ITPAなどの遺伝子発現をPCR法で解析します。 |
プライバシーの 保護 |
遺伝子の研究結果は、様々な問題を引き起こす可能性があるため、他の人に漏れないように、取扱いを慎重に行う必要があります。あなたの血液などの試料や診療情報は、分析する前に診療録や試料の整理簿から、住所、氏名、生年月日などを削り、代わりに新しく符号をつけます。あなたとこの符号を結びつける対応表は、大阪大学大学院医学系研究科・消化器内科学において厳重に保管します。このようにすることによって、あなたの遺伝子の分析結果は、分析を行う研究者にも、あなたのものであると分からなくなります。ただし、遺伝子解析の結果についてあなたに説明する場合など、必要な場合には、大阪大学大学院医学系研究科・消化器内科学においてこの符号を元の氏名などに戻す操作を行い、結果をあなたにお知らせすることが可能になります。 |
本研究に関する 問い合わせ先 |
大阪大学消化器内科学 藥師神 崇行(講師) 連絡先電話番号:大阪大学消化器内科学(06-6879-3621) |


