ひとことで言うと
日本語の胸部・腹部CTレポートから、所見や診断、それらの関係を高精度に抽出し、自由記載の放射線レポートを構造化データへ変換する2段階深層学習システムを開発した研究。
Keywords
自然言語処理、放射線レポート、AI(機械学習)、情報抽出、構造化データ
なぜこの研究をしたのか
放射線レポートには、観察された構造、診断の可能性、治療方針に関する情報など、臨床的に重要な情報が含まれている。しかし多くのレポートは自由記載で書かれているため、症例検索、コホート作成、診断サーベイランス、臨床意思決定支援などへの二次利用が難しい。
従来の辞書ベースやルールベースの情報抽出システムには、表記揺れ、略語、非標準的な用語への対応、辞書の維持、言語依存性といった課題があった。特に日本語を含む英語以外の臨床テキストでは、十分な臨床言語資源がないことが、臨床NLPシステム開発の障壁になっていた。
どう調べたか
大阪大学医学部附属病院の放射線情報システムに保存された、2010年から2021年までの日本語放射線レポート912,505件を用いた。このうち、胸部CTレポート540件と腹部CTレポート500件をランダムに抽出し、医療専門家がアノテーションしたゴールドスタンダードデータセットを作成した。残りの911,465件はモデルの事前学習に用いられた。
システムは2段階で構成された。第1段階では、放射線レポート内の臨床エンティティを抽出した。エンティティには、観察所見、臨床所見、解剖学的位置、確信度、変化、特徴、サイズの7種類が定義された。第2段階では、抽出されたエンティティ間の関係を抽出した。関係には、観察所見や臨床所見と修飾語を結ぶ modifier relation と、観察所見と臨床所見を結ぶ evidence relation が定義された。
エンティティ抽出では BiLSTM-CRF、BERT、BERT-CRF を比較し、関係抽出では BiLSTM attention model と BERT を比較した。さらに、放射線レポートを用いたドメイン適応の有無による性能差も検証した。
何がわかったか
最良のエンティティ抽出モデルは、ドメイン適応ありの BiLSTM-CRF で、microaveraged F1-score は96.1%だった。関係抽出では、ドメイン適応ありの BERT が最も高い性能を示し、microaveraged F1-score は97.6%だった。
エンティティ抽出と関係抽出を組み合わせた2段階システム全体では、microaveraged F1-score は91.9%だった。また、句読点とストップワードを除外した場合、情報モデルによる臨床情報のカバレッジは96.2%(6595/6853)だった。
なぜ大事なのか
この研究は、日本語の自由記載放射線レポートから、臨床的に意味のある情報を高精度かつ包括的に抽出し、構造化形式へ変換できる可能性を示した。
特に、観察所見や臨床所見だけでなく、それらを修飾する情報や、観察所見が臨床所見の根拠となる関係まで抽出できる点は、放射線レポートの二次利用に重要である。症例検索などの実用的な用途への応用可能性が示されている。
次に目指すこと
本研究は単一施設のデータセットで評価されており、一般化可能性には限界がある。今後は、他施設のレポートを用いた評価が必要である。
また、胸部・腹部CTレポートのみで検証されているため、他の部位やモダリティのレポートに適用するには、深層学習モデルの追加調整が必要である。さらに、放射線レポートには誤字、略語、非標準的な用語が含まれるため、臨床応用には用語正規化技術が必要になると述べられている。