大阪大学医学部附属病院 医療情報部

Achievement Detail

自然言語処理を用いた読影レポートからの重要所見の自動抽出に関する取り組み

自然言語処理で読影レポートから「がん」を疑う重要所見を自動抽出する研究

年度
2023
タイプ
学会発表
キーワード
AI(機械学習), 医療従事者支援, 放射線レポート, 自然言語処理
Authors
杉本 賢人、孫 逸樵、和田 聖哉、小西 正三、岡田 佳築、松村 泰志、武田 理宏
学会
第43回医療情報学連合大会
開催地
神戸市

ひとことで言うと

読影レポートの見落とし対策として、自然言語処理と辞書・ルールを用いて「がん」を疑う重要所見とその解剖学的区域を自動抽出するシステムを開発・評価した研究。

Keywords

自然言語処理、放射線レポート、医療従事者支援、AI(機械学習)、医療安全

なぜこの研究をしたのか

画像診断レポートには、悪性腫瘍など患者の生命に関わる重要な情報が含まれることがある。しかし、主治医と放射線科医のコミュニケーションエラーや、主治医によるレポート確認漏れなどにより、適切なフォローアップが行われない場合がある。既読管理や重要所見フラグによる対策はあるものの、監査負担、判断基準のばらつき、フラグ付与忘れといった課題があるため、事前に定義したルールに基づいて監査対象レポートを自動抽出する仕組みが求められている。

どう調べたか

本研究では、「がん」を疑う所見を含む読影レポートを重要所見として抽出するシステムを構築した。まず、フリーテキストの放射線レポートを、機械学習を用いた構造化モジュールにより、観察物、臨床所見、部位、サイズ、性状、変化などの情報としてJSON形式に構造化した。次に、事前に作成した辞書と判定ルールを用いて、「がん」を疑う臨床所見や観察物を抽出し、それに紐づく部位情報から解剖学的区域を判定した。

辞書作成には、大阪大学医学部附属病院で2010〜2018年に作成された胸腹部CTレポート257,229枚を用いた。観察物・臨床所見については17,033語を抽出し、そのうち出現回数2回以上の7,051語を対象に、腫瘍関連語かどうか、および良性・悪性・判断困難のコード付けを行った。解剖学的区域については15,367語を抽出し、出現回数3回以上の7,908語を対象にコーディングした。

性能評価では、大阪大学医学部附属病院で2019〜2021年に重要所見フラグが付与された胸腹部CTレポート346枚から、医師3名によるラベル付けに基づき、「がん」を示唆する所見を含む264枚を抽出した。これらを用いて、重要所見判定と解剖学的区域判定の性能を評価した。

何がわかったか

264枚のレポートにシステムを適用した結果、259枚が重要所見レポートとして判定され、「がん」を疑う所見の抽出感度は98.1%であった。

解剖学的区域別の判定では、平均F1値は84.2%であった。甲状腺、肺区域、乳房、胃、大腸などではF1値が90%以上と良好だった一方、肝臓、脾臓、膵臓、胸部その他、腹部その他などでは性能が低い領域もみられた。

なぜ大事なのか

読影レポート内の重要所見を自動抽出できれば、主治医の確認漏れや対応遅れを減らし、医療安全の向上につながる可能性がある。また、画像診断医が手動で重要所見フラグを付ける負担や、判断基準の個人差を減らし、監査対象を効率的に絞り込める可能性がある。特に、本研究で対象とした「がん」を疑う所見は、見落とし時のリスクが大きいため、臨床現場での支援システムとして意義がある。

次に目指すこと

システムが取りこぼした事例では、「濃度上昇」「嚢胞性病変」などの表現が辞書で十分にカバーされていないことや、「良性とも言い切れず」のような曖昧な文脈を適切に扱えないことが課題として示された。また、解剖学的区域判定では、辞書未登録の表現、部位との関係抽出の誤り、臨床所見そのものに臓器情報が含まれる場合への対応、骨盤内など相対的な区域表現の扱いが課題であった。

今後は、辞書の改善、フォローアップを示唆する記載の抽出、関係抽出を含む構造化モジュールの改善に加え、患者単位でレポートを時系列に処理し、過去レポートとの比較によって「初めて重要所見と判定されたか」を扱うアルゴリズムの開発と、実運用に向けたシステム化を進めることが目指されている。