ひとことで言うと
レセプト情報だけでは見落とされる肺がん症例を、放射線レポートに対するNLP解析で補完することで、症例同定の感度を高めた研究。
Keywords
医療情報DB、EHR、医療従事者支援、AI(機械学習)、臨床研究支援
なぜこの研究をしたのか
リアルワールドデータを用いた臨床研究では、対象となる患者集団を正確に同定することが重要である。
しかし、レセプトデータは診療行為や処方を把握しやすい一方で、診断名の正確性や臨床的な詳細情報には限界がある。
そこで本研究では、レセプト情報に電子カルテ内の放射線レポート情報を組み合わせ、NLPによって肺がん症例をより正確に抽出する方法を検討した。
どう調べたか
大阪大学医学部附属病院のデータを用い、2017〜2024年のレセプト・DPCデータと、2016〜2024年の放射線レポートを解析対象とした。
まず、ICD-10コードC34に基づいて肺がん疑いの患者を抽出し、既治療例や他院で診断・初回治療が行われた症例を除外した。
最終的に2,623例を解析対象とし、院内がん登録を正解データとして、以下の2つのアルゴリズムを比較した。
- レセプトのみのアルゴリズム
肺がん診断コード後6か月以内に、手術・化学療法・放射線治療のいずれかの治療コードがある症例を陽性とした。 - NLP補完アルゴリズム
まずレセプトのみの条件で症例を同定し、そこで拾えなかった症例について、放射線レポートを深層学習ベースのNLPモデルで解析した。
レポート内に「肺がん」に関する所見が一定以上の確からしさで抽出された場合、追加で陽性と判定した。
何がわかったか
レセプトのみのアルゴリズムでは、感度は92.7%、陽性的中率は86.0%であった。
一方、NLP補完アルゴリズムでは、感度は98.5%まで上昇し、レセプトだけでは見落とされる症例を追加で拾えることが示された。
ただし、NLP補完により陽性的中率は81.6%に低下した。
この低下の一因は、院内がん登録には含まれない前浸潤病変や経過観察が必要な早期病変を、NLPが臨床的に重要な所見として検出したためと考えられた。
なぜ大事なのか
この研究は、レセプトデータだけに依存した症例抽出では、治療前・未治療・早期段階の症例を見逃す可能性があることを示している。
放射線レポートのような非構造化データをNLPで活用することで、より臨床実態に近い患者集団を同定できる可能性がある。
また、院内がん登録を単一のゴールドスタンダードとすると、臨床的には重要な前浸潤病変や疑い病変が「偽陽性」と扱われる可能性がある。
そのため、早期発見や未登録段階の病態を評価するためには、新しい評価枠組みが必要であることも示唆された。
次に目指すこと
本研究は単施設・後ろ向き研究であるため、今後は多施設データでの外部検証が必要である。
また、NLPで検出された前浸潤病変や肺がん疑い症例について、長期的に追跡し、実際に浸潤がんへ進展するリスクを評価することが次の課題である。