ひとことで言うと
日本語で書かれた胸部CTレポートから、深層学習とルールベース処理を組み合わせて肺がんの臨床T分類(cT)を高精度に自動判定し、リアルワールドデータ活用の負担を減らせる可能性を示した研究。

Keywords
医療情報DB、AI(機械学習)、臨床研究支援、自然言語処理、肺がん
なぜこの研究をしたのか
肺がんの治療方針や予後評価、リアルワールドデータを用いた研究では、TNM分類によるがんの進行度情報が重要である。一方、臨床で用いられるcTNM情報の根拠となる画像所見は、放射線レポートの自由記載として保存されることが多く、研究に利用するには専門家が一件ずつ読み取って構造化する必要があった。
また、実際のレポートには「浸潤の可能性がある」などの曖昧な表現や、T分類を決めるには情報が不足しているケースもある。そこで、単純にT分類を当てるだけでなく、「分類できるレポートかどうか」も含めて自動判定できる仕組みの開発を目指した。
どう調べたか
大阪大学医学部附属病院で肺がんと診断された患者の、日本語で記載された胸部CTレポートを後ろ向きに収集した。2019~2020年の284件を学習・開発用、2021年の165件を独立したテスト用データとして使用した。
システムは、まず深層学習を用いて自由記載から腫瘍の大きさ、部位、浸潤、肺内転移などの情報と、その記載の確からしさを抽出する。その後、肺癌取扱い規約第9版に基づくルールを適用し、レポートを「cTを明確に決められる(definite)」「情報不足や曖昧さがあり候補のみ示せる(uncertain)」「判定に必要な情報がない(absent)」の3種類に分類したうえで、判定可能なレポートについてcTサブステージを自動分類した。
単なるcT分類器ではなく「そもそもそのレポートから確定的に分類できるか」を先に判定していることと、深層学習+診療ルールのハイブリッド構成が特徴。
何がわかったか
テストデータ165件のうち約85%は、レポートだけからcTサブステージを明確に判定できる内容だった。「definite/uncertain/absent」を判別する性能は、テストセットでweighted F1スコア0.93だった。
さらに、「判定可能」と正しく認識できたレポートについてcTサブステージを分類すると、テストセットで精度0.96、weighted F1スコア0.95(95%CI 0.92–0.99)と高い性能を示した。
一方、「uncertain」の検出は他の分類より難しく、一部の曖昧なレポートを誤って「判定可能」と判断するケースもみられた。
なぜ大事なのか
肺がんのcT分類をリアルワールドデータ研究に利用する際、これまで人が放射線レポートを読み、手作業で付与していたラベルを自動化できる可能性がある。これにより、大規模な臨床データを用いた研究で必要となるアノテーションの時間やコストを減らせる。
また、単にAIがT分類を予測するのではなく、深層学習による柔軟な情報抽出と、診療ガイドラインに沿ったルールベース分類を組み合わせているため、分類過程を比較的説明しやすい点も特徴である。
さらに、cTを判定可能なCTレポートを大量に抽出できれば、対応するCT画像にcTラベルを付与した大規模画像データセットを構築し、画像そのものから病期を予測するAIの研究にもつながる可能性がある。
次に目指すこと
今回は単一施設の日本語の胸部CTレポートのみを対象としており、他施設のデータや英語など他言語のレポートで同じ性能が得られるかは検証が必要である。また、PET-CTなど胸部CT以外の検査への展開も課題となる。
加えて、本研究はTNM分類のうちT分類のみを対象としているため、今後はリンパ節転移を示すN分類や遠隔転移を示すM分類まで対象を広げ、TNM全体を自動構造化できるシステムへ発展させることが期待される。
曖昧な記載を「definite」と誤判定するケースも残っているため、情報同士の関係をより正確に認識する深層学習手法の導入や、外部施設の独立データを用いた検証も今後の重要な課題である。