ひとことで言うと
DWHに蓄積されていなかった麻酔記録内の抗菌薬投与情報を、PDF解析によって抽出し、予防的抗菌薬投与率を算出できるようにした研究。
Keywords
医療情報DB、自然言語処理、EHR、DWH、PDF解析
なぜこの研究をしたのか
手術部位感染の防止には、手術前の予防的抗菌薬投与が推奨されている。
しかし、抗菌薬投与のタイミングは手術室の麻酔記録に記録され、電子カルテの注射実施データやDWHには分析可能な形で蓄積されていなかった。
また、2024年6月からDPC調査に予防的抗菌薬投与の項目が追加され、実施状況を管理する必要性が高まっていた。
どう調べたか
文書統合管理システム(DACS)に保存されている麻酔記録PDFを一括ダウンロードし、PythonでPDF解析を行った。
麻酔記録内の「入力データ一覧」という表を含むページと座標を特定し、camelotモジュールで表データを抽出した。
抽出した時系列データから手術開始時間を取得し、99種の抗菌薬リストと正規表現で照合して抗菌薬投与時間と抗菌薬名を取り出した。
最終的に、患者ID、手術日、手術開始時間、抗菌薬投与時間、抗菌薬名などを一覧化し、ETLツールを用いて院内DWHへ保存した。
何がわかったか
2024年5月の麻酔記録585件に対して処理を行い、すべての麻酔記録から時系列データを取得できた。
表パージングの値の認識率は100%で、処理時間は約3時間であった。
手術前抗菌薬投与時間のカテゴリ別件数は、「術前1時間以内」が464件、「術前1時間より前で2時間以内」が22件、「術前2時間より前」が1件、「手術中」が14件、「投与無」が84件であった。
なぜ大事なのか
麻酔記録のような部門システム内のデータは、DWH設計時に蓄積対象から漏れることがある。
本研究では、すでに診療録として保存されているテキスト型PDFを解析することで、DWHに不足していたデータを補い、予防的抗菌薬投与率の継続的な算出につなげられることを示した。
また、過去のPDFにも同じ処理を適用できるため、既存データの後利用にも有用な方法である。
次に目指すこと
抗菌薬名はリストとの部分一致で検出しているため、採用薬の変更や抗菌薬リストの不足があると検出精度に影響する。
そのため、薬剤部や感染制御部と連携して抗菌薬リストを更新し、「投与無」と判定された記録を目視確認するなど、定期的な検証が必要である。
また、記号などの特殊文字が混じる場合には改めて検証が必要である。
本手法は、麻酔記録以外の記録にも応用できる可能性があり、院内の研究支援に利用できるデータ種を増やすことが期待される。