ひとことで言うと
臨中ネット標準データベースに分散している臨床データを、物理的に移動せずクラウド上で解析できるFull-Cloud Personal Health Train(FC-PHT)の有効性と課題を、ARNI使用患者のBNP・NT-proBNP解析で検証した研究です。
なぜこの研究をしたのか
臨中ネットでは、各施設の電子カルテデータを用いた標準データベースが整備され、共通SQLでデータ抽出できる仕組みが作られている。しかし、研究者がSQLを作成し、各施設へ送付し、施設側で実行して結果を集約する流れは、研究者と施設のデータ担当者の双方に大きな負担となっていた。
この課題に対して、各施設に分散した臨中ネット標準データベースを対象に、安全なデータ抽出・解析をクラウド上で完結できるFC-PHTが開発された。本研究では、そのうちカスタムSQLとRまたはPythonスクリプトを用いる詳細解析システムの有効性と限界を検証した。
どう調べたか
大阪大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、国立がん研究センター東病院の3施設からデータを収集した。国立がん研究センター東病院は症例数が少なかったため、最終解析には大阪大学医学部附属病院と京都大学医学部附属病院を含めた。
FC-PHT上でSQLとRスクリプトを実行し、ARNI処方と心血管疾患のICD-10コードを持つ患者を抽出した。ARNI開始前後90日以内のBNPおよびNT-proBNP測定データを解析し、結果はdeliverer trainを通じて研究者に返却された。
何がわかったか
90日以上ARNIを処方され、定義期間内にバイオマーカー測定があった心血管疾患患者は、大阪大学医学部附属病院で161例、京都大学医学部附属病院で129例だった。このうちARNI治療前にBNPが測定されていた患者は、それぞれ41例と40例だった。
ARNI開始後、大阪大学医学部附属病院では11例(26.8%)、京都大学医学部附属病院では9例(22.5%)がNT-proBNP測定へ切り替わった。一方で、30例(73.2%)と31例(77.5%)はBNP測定を継続していた。
大阪大学医学部附属病院では、BNPはARNI前後で有意差を認めなかったが、NT-proBNPは1235.5 ± 2214.0 pg/mlから732.1 ± 815.9 pg/mlへ有意に低下した(p=0.026)。京都大学医学部附属病院でも、BNPは有意な変化を認めず、NT-proBNPは6050.0 ± 9318.3 pg/mlから1442.7 ± 1215.6 pg/mlへ有意に低下した(p=0.042)。
なぜ大事なのか
解析結果はARNIの既知の薬理作用と整合しており、FC-PHTがデータを物理的に移動せずにクラウド上で解析を支援できる可能性が示された。
この仕組みにより、臨中ネット標準データベースを用いた臨床研究において、研究者とデータ管理担当者の負担を軽減できる可能性がある。
次に目指すこと
現状の課題として、研究者がRまたはPythonで解析コードを書く必要があり、プログラミング経験の少ない研究者には障壁となりうる。また、現在のシステムは各施設内での解析のみを対象としている。
今後は、多施設統合解析への対応と、プログラミング経験が限られる研究者でも利用しやすい仕組みの整備が求められる。