ひとことで言うと
放射線レポートの見落とし防止に向けて、自然言語処理と辞書・ルールを用い、「がんを疑う所見」を含むレポートを自動抽出するシステムを開発・評価した研究。
Keywords
自然言語処理、放射線レポート、医療従事者支援、AI(機械学習)、医療安全
なぜこの研究をしたのか
画像検査後に放射線科医が作成するレポートには、診断やフォローアップに関わる重要な情報が含まれる。しかし、主治医と放射線科医のコミュニケーションエラーや、主治医の確認漏れなどにより、適切な対応が取られないことがある。特に悪性腫瘍など患者の生命に関わる重要所見の見落としは深刻な問題につながるため、画像診断医に負担を強いることなく、基準に沿って監査対象レポートを自動抽出する仕組みを目指した。
どう調べたか
本研究では、重要所見を「“がん”を疑う所見」と定義した。まず、放射線レポートのフリーテキストを機械学習で構造化し、観察物・臨床所見・部位・サイズ・性状・変化などの情報を抽出した。さらに、各所見に対して確信度を5段階で付与した。
次に、2010〜2018年に大阪大学医学部附属病院で作成された胸腹部CTレポート257,229枚から抽出された臨床所見用語を整理し、腫瘍に関する辞書を作成した。腫瘍関連用語には、Benign、Malignant、Indeterminate のコードを付与した。
そのうえで、辞書と判定ルールを用い、「Malignant or Indeterminate」とされた用語で、かつ確信度が一定以上のものを含むレポートを「がんを疑うレポート」として抽出した。偽陽性を減らすため、良性を示す臨床所見や「改善・変化なし」などの変化表現に基づく除外ルールも追加した。
評価には、構造化や辞書作成に使っていない2019年の胸腹部CTレポートを用いた。医師4名が合計1,100枚のレポートをアノテーションし、各レポートが重要所見を含むかを評価した。
何がわかったか
がん登録を参照した評価セットでは、除外ルールなしの場合、感度98.20%、陽性適中率88.19%であった。除外ルールを適用すると、感度は95.10%に低下した一方、陽性適中率は96.09%に改善した。
また、実臨床に近い分布からサンプリングした評価セットでは、陽性適中率は73.78%であった。感度は臨床応用に向けて満足できる水準に達している一方、監査者の負担を減らすには陽性適中率の改善が望まれるとされた。
なぜ大事なのか
放射線レポートの重要所見を自動で抽出できれば、主治医の確認漏れや対応漏れを防ぐための監査対象を効率的に絞り込める。画像診断医が手動で重要所見フラグを付ける負担や、担当者ごとの判断のばらつきを減らし、医療安全の向上に貢献する可能性がある。
次に目指すこと
今後は、辞書を改善して感度をさらに高めることが課題とされている。また、レポートを1枚ずつ判定するのではなく、患者単位でレポートを系列として扱い、特定の解剖学的区域において一定期間で初めて“がん”を疑った所見を抽出する仕組みの開発・評価を目指す。