ひとことで言うと
生成AIによる疑似教師データとCPUで動作する軽量マルチタスクモデルを組み合わせ、個別症例安全性報告の作成を支援する低レイテンシのAIシステムを開発した研究です。
なぜこの研究をしたのか
個別症例安全性報告(ICSR)の作成には、有害事象の有無判定、MedDRAコーディング、患者属性や医薬品名の抽出など高度な専門知識を要する作業が多く、時間・コストやヒューマンエラーが課題となっている。大規模言語モデルの活用が注目されている一方で、実務で必要な応答速度、導入・運用コスト、費用対効果の定量的評価には課題が残っていた。
どう調べたか
StreamlitとPythonでWebアプリを実装し、CPUで高速推論可能なModernBERT-baseを基盤としたマルチタスク・マルチヘッドモデルを開発した。
モデルは、文書分類として有害事象(AE)、妊婦・授乳婦服薬(PBE)、特別な状況(SS)を判定し、固有表現抽出として重要表現、患者属性、医薬品名を抽出する構成とした。
学習では、文書分類ラベル付きの社内データ20万件でウォームアップを行った後、Qwen/Qwen3-32B 4bit量子化モデルで作成した疑似NERラベル付きデータ5,375件を8:2に分割して学習・評価に用いた。性能評価には、文書分類でAUROC、固有表現抽出でRelaxed F1を用いた。推論速度は、平均534文字のテキスト209件をWindows 11 ProラップトップPC上で処理して測定した。
何がわかったか
文書分類では、AUROCがAE 0.96、PBE 0.98、SS 0.89と高い性能を示した。
固有表現抽出では、F1値が重要表現56.1%、年齢78.5%、性別85.4%、医薬品名90.0%であった。推論速度は平均571 ± 449 ms、中央値439 msであり、CPUのみでも対話的利用に支障のない応答性を示した。
なぜ大事なのか
手動アノテーションを用いず、生成AIで作成した疑似教師データのみで、ICSR作成支援に使える初期モデルを構築できる可能性を示した点が重要である。
また、GPUを必要とせず汎用CPU上で高速に動作するため、高価なインフラ投資を避けながら、既存IT資産を活用して現場に導入できる可能性がある。さらに、Human-in-the-Loop設計により、人手による修正を継続学習に取り込むことで、実運用の中で精度改善を進められる。
次に目指すこと
重要表現抽出の性能には改善の余地があり、今後は実運用での人手修正を継続学習に取り込むことで精度向上を目指す。
また、実環境での実証研究を通じて、業務時間、エラー率、ユーザー満足度などへの効果を定量評価することが今後の課題である。