ケトン食療法とは

近年、糖質を控え、脂肪を増やす食事であるケトン食(低炭水化物高脂肪食)によって、癌の成長が妨げられる効果が注目されています。

ケトン食による病気に対しての治療応用は、実は長い歴史があります。古くは、ヒポクラテスによって、てんかんに対する絶食の効果が報告されました。それをもとに、1921年アメリ力のWilderによって絶食より負担の少ない食事としてケトン食が考えられ、てんかん患者において劇的な発作軽減効果が報告されました。日本においても、小児科の先生を中心に、難治性てんかんの患者さんに対してケトン食の指導が行なわれており、ケトン食の有効性と安全性が確認されています。

近年の研究では、外科治療、放射線治療や抗がん剤治療などでも治療困難な脳腫瘍であるグリオブラストーマにおいて、ケトン食の継続によって、がんの増殖が抑えられることが、報告されています1)。ドイツのグループからは、ケトン食によって、がん末期の患者さんに対して、精神の安定や不眠、食欲不振などの症状が和らぎ、生活の質(QOL)が向上する効果がみられたことが報告されています2)。

ケトン食が有効な根拠のーつとしては、イヌイット民族における疫学調査の結果が挙げられます。イヌイット民族は、伝統的にケトン食類似の(低炭水化物高脂肪食)の食習慣を守り、がんの発生率は極めて低いことが知られていたのですが、1910年以降欧米型の食文化が入ってくるようになり、1950年代からは大腸癌・肺癌・乳癌・前立腺癌が増加していたことが報告されています3)。

以上のことから、ケトン食の癌に対する抑制効果が期待され、ドイツやアメリカを中心に、肺癌、膵臓癌、前立腺癌などさまざまな癌患者さんに対してのケトン食の有効性を調べる取り組みが始まりました。日本人を対象にした研究は行われていなかったことから、大阪大学先進融合医学共同研究講座では、2012年日本国内において先駆けて、がん患者に対するケトン食の有用性を検討するために、大阪大学ゲノム審査委員会に申請を行い、2013年承認後に臨床研究を開始しました。現在、その臨床効果が注目を集めている状況です。

文献

  1. Zuccoli G et al. Metabolic management of glioblastoma multiforme using standard therapy together with a restricted ketogenic diet: Case Report. Nutr Metab (Lond). 2010 Apr 22;7:33.
  2. Schmidt M et al. Effects of a ketogenic diet on the quality of life in 16 patients with advanced cancer: A pilot trial.Nutr Metab (Lond). 2011 Jul 27;8(1):54.
  3. Friborg JT , Melbye M. Cancer patterns in Inuit populations. Lancet Oncol. 2008 Sep;9(9):892-900.)

大阪大学でケトン食療法をご希望の方
(被検者募集一旦終了について)

平成24年11月から実施しておりました、「癌患者に対するケトン食の有用性の検討」 は皆様のご協力のお陰で、目標症例数に到達し平成30年10月末で症例登録の受付を一旦終了とさせていただきます。 なお、次の「癌ケトン食療法臨床試験」の開始に向けて、現在準備を進めております。 準備が整い次第、症例募集を開始いたしますので、癌ケトン食療法をご希望の患者さん は、今しばらくお待ちいただくことになります。何卒ご了承ください。