腹腔鏡検査で診断された腹膜透析施行前に腹膜硬化症を呈した一例
"Pseudo-empty pelvis" in a pre-dialysis patient
Matsumoto, A., Matsui, I., Sakaguchi, Y., Kitamura, H., Shinzawa, M., Monden, C., Takahashi, A., Takabatake, Y., & Isaka, Y.
腹膜透析施行患者さんの腹膜の状態を適切に評価することは非常に重要です。腹膜硬化症は重篤な腹膜異状の一つであり、その多くは腹膜透析施行後に発症しますが、自己免疫性疾患や腹腔内悪性疾患などによっても生じることが報告されています。我々は今回、腹膜透析カテーテル挿入術時の腹腔鏡検査で偶発的に診断された腹膜硬化症の一例を経験したので報告しました。
症例は50歳代女性で、腹膜透析カテーテル挿入術施行目的に入院となりました。入院15年前に血液疾患に対して化学療法・骨髄移植および移植片対宿主病の既往歴がありました。入院時に腹部症状は認めず、血液検査でも炎症反応は陰性、腹部超音波検査や腹部単純CT検査でも特記すべき異常は指摘されませんでした。しかし、術中の腹腔鏡所見では腹腔内全体に腹膜硬化症を示唆するCocoon状の腹膜肥厚を認めました。腹膜透析施行による腹膜への更なる刺激を懸念し、本症例では腹膜透析カテーテル挿入術を中断することとなりました。
腹膜透析以外に腹膜硬化症を引き起こし得る因子としては下記に示すものが報告されています。本症例では15年前に発症した血液疾患およびその治療が腹膜硬化症の原因となったと考えられました。CTやエコーでは腹膜の状態を十分に評価することはできないため、腹膜刺激を来し得る既往歴を有する症例では、腹膜透析カテーテル挿入時に腹腔鏡を使用して腹膜の状態を直接観察することが有用と考えられます。