透析患者のTAVI術後生体弁狭窄と術前低マグネシウム血症の関連

Ren Fail 2022 Dec;44(1):1083-1089. doi: 10.1080/0886022X.2022.2094272.

Preoperative hypomagnesemia as a possible predictive factor for postoperative increase of transvalvular pressure gradient in hemodialysis patients treated with transcatheter aortic valve implantation.

Masuyama S, Mizui M, Maeda K, Shimamura K, Sakaguchi Y, Morita M, Kuratani T, Mizote I, Nakamura D, Sakata Y, Sawa Y, Miyagawa S and Isaka Y.

 

2021年2月に透析患者の大動脈弁狭窄症に対して経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が保険適応となりました。外科手術のリスクが高い維持透析患者ではTAVIは有望な治療選択肢となり得ますが、一般的に透析患者では生体弁の構造劣化(SVD)のリスクが高くなることが知られています。しかしながら、血液透析患者におけるTAVI後のSVDの発生を予測する術前の要因はまだ解明されていません。そこで、本学において、保険適応前に先進医療として施行されたデータを使用して、血液透析患者に対するTAVI術後の生体弁再狭窄の術前リスク因子についての解析を行いました。

対象は2012年4月から2016年1月の間に当院でTAVIを受けた24人の血液透析患者で、術後の平均大動脈弁圧較差(MPG)および有効開口面積指数(EOAi)の時系列変化データと術前の臨床パラメータとの関連について、線形混合効果モデルを使用して解析しました。平均追跡期間は3.4 ± 2.3年で、性別や血液検査所見などの要因で調整したところ、TAVI後の時間依存性MPG変化と関連する因子として、術前の血清マグネシウム濃度が検出されました。一方、今回の検討ではカルシウム・リンなどの他のCKD関連骨ミネラル因子は有意な相関を示しませんでした。

さらに解析したところ、血清マグネシウム濃度が低い群ではMPGが経時的に上昇し、EOAiが低下する傾向がみられました(下図)。低マグネシウム群のうち3人の患者が再手術(TAV-in-TAV)を必要とする石灰化弁狭窄を伴う重度のSVDを発症していました。

術前の血清Mg値で分けた2群のMPGとEOAiの推移

今回の検討の結果、血液透析患者の低マグネシウム血症がTAVI後の生体弁狭窄を予測しうる因子であることがわかりました。マグネシウムは血管石灰化抑制効果を持つミネラルとして注目されており、これまでの当研究室の検討で、マグネシウム投与は保存期CKD患者の冠動脈石灰化を抑制することがわかっています。今回の結果からマグネシウム管理が透析患者のTAVI後生体弁石灰化抑制・狭窄予防にも有用かもしれません。今後はさらに症例を集積したデータ解析が必要と考えております。