研修医レクチャー 血液ガス・酸塩基平衡の読み方 | 大阪大学腎臓内科

研修医レクチャー5 血液ガス・酸塩基平衡の読み方

現在の研修制度では、全員が麻酔科、あるいは救急をローテーションすることになっており、血液ガスを測定する機会は増えています。しかし、必ずしも全員がきちんと読めるわけではありません。

このセミナーでは、イントロ、呼吸編、腎臓編として、血液ガスと酸塩基平衡の見方、読み方を懇切丁寧に、その背景からレクチャーします。後半では実際の症例に基づいた練習問題を解くことで身につけられるようにしています。

血液ガスの見方、読み方

まず添え字がたくさん出てくるので注意が必要です。

SpO2とSaO2の間違いは結構多いので気をつけてください。

また、添え字のAとaも違います。Aは肺胞のことで、aは動脈血を意味します。

シグモイド型カーブの意味は?

肺の機能が低下し、PaO2が低下した場合、直線的にSaO2が落ちてしまっては、簡単に脳やその他の臓器が酸素不足に陥ります。ヘモグロビンが4量体であり、アロステリック効果により酸素が多いところでは酸素と結合し、酸素が少ないところでは酸素を離すという性質は、血液自体に低酸素に対する予備能があるともいえます。つまり、PaO2=60mmHgまではSaO2=90%で維持されます。しかし、これ以下では急激にSaO2が低下します。これは酸素投与を必要とするかどうかの重要な判断基準の一つとして記憶しておくべき値です。

酸塩基平衡の見方、読み方

酸塩基平衡異常を正しく理解するためには、次の順番で読み進めていきましょう。キーワードは、pH、PaCO2、HCO3-、アニオンギャップ(anion gap)、尿Cl濃度です。

STEP 1: pHの評価

pHの値から、酸塩基平衡異常のメインがアシドーシスによるアシデミアなのか、アルカローシスによるアルカレミアなのかを判断します。

STEP 2: HCO3-とPaco2の評価

HCO3-とPaco2の値から、酸塩基平衡異常の主因が、呼吸性のなのか、それとも代謝性なのかを判断します。

STEP 3: Cl-の評価

次に注目するのは、血液中の陰イオンの大部分を占めるCl-です。

代謝性アシドーシスの場合、アニオンギャップ(anion gap)を計算して、正〜低Cl性代謝性アシドーシスなのか、高Cl性代謝性アシドーシスなのかを評価します。

アニオンギャップ = Na+ − Cl- − HCO3-

代謝性アルカローシスの場合、尿中Cl-濃度の測定が鑑別診断に有用です。

STEP 4: 代償性変化の評価

アシドーシスが起これば、そのアシドーシスを打ち消そうとして、生体は代償性のアルカローシスを引き起こします。代償範囲の逸脱が認められれば、複数の病態が合併している可能性を考えなければなりません。

  代償性変化の予測範囲 代償範囲の限界値
代謝性アシドーシス ⊿Paco2 = ⊿HCO3- X 1〜1.3 ⊿Paco2 = 15 mmHg
代謝性アルカローシス ⊿Paco2 = ⊿HCO3- X 0.6 ⊿Paco2 = 60 mmHg
呼吸性アシドーシス(急性) ⊿HCO3- = ⊿Paco2 X 0.1 ⊿HCO3- = 30 mmHg
呼吸性アシドーシス(慢性) ⊿HCO3- = ⊿Paco2 X 0.35 ⊿HCO3- = 42 mmHg
呼吸性アルカローシス(急性) ⊿HCO3- = ⊿Paco2 X 0.2 ⊿HCO3- = 18 mmHg
呼吸性アルカローシス(慢性) ⊿HCO3- = ⊿Paco2 X 0.5 ⊿HCO3- = 12 mmHg

酸塩基平衡異常をもっと詳しく理解するためには、補正HCO3-や尿アニオンギャップ等を把握する事が有用です。詳細については、腎臓内科レジデントマニュアルの「酸・塩基平衡異常とその治療」をご覧下さい。

なぜ読めないのか

普段、入院時に測定している項目は優に数10項目になります。しかし、これらの項目はほとんどの場合、基準値の範囲内か否かで判断できます。

一方で、酸塩基平衡異常の診断に必要な項目は、pH、PaCO2、HCO3-だけですが正確に読めるヒトは少ないようです。(この場合PaO2も不要です。)計算に関しても皆さんが大学入試で勉強した数列や三角関数、微分積分の方が遙かに難しいでしょう。実際に四則演算のみできちんと解釈することができます。しかし、ところどころ、アニオンギャップ、補正HCO3-、代償・・・などという言葉が入って来て、更に複数の酸塩基平衡障害が合併してくると、難しくなるようです。

酸塩基平衡は、正しい読み方でシステマチックに読めば誰でも読めて、しかも一生使えます。腎臓内科で研修した際にはぜひ身につけてほしいと思います。