慢性腎臓病と造影後急性腎障害 二つの腎臓病が及ぼす冠動脈造影後の長期予後

近年の治療の進歩とともに、リスクの高い慢性腎臓病患者さんが冠動脈造影検査を受けることが多くなってきています。また、造影に伴う急性腎障害(造影後急性腎障害)は予後に影響すると考えられてきており、予防策の検討が種々なされています。一方で、冠動脈造影の患者さんは同時に循環不全を呈することが多いことも、よく知られています。循環不全自体が強く予後に影響することを考えると、慢性腎臓病と造影後急性腎障害が、本当に循環不全と関係なく予後に影響するのか、それとも実は循環不全が予後に影響していただけなのか疑問を持つようになり、検討することにしました。

慢性腎臓病の患者さんは、腎機能が低下するにつれ、循環動態と関係なく長期予後が悪化することがわかりました。また、造影後急性腎障害を発生した患者さんでも長期予後は悪化しましたが、循環動態が安定している患者さんでは、その影響がかなり減弱することがわかりました。本研究により、冠動脈造影時の腎機能と循環動態の評価の重要性が示され、臨床実践に必要な視点を提供しえたと考えています。なお、本研究では、造影後急性腎障害予防に関してエビデンスがある対策(適切な造影剤の使用、術前輸液など)は講じられており、この必要性を損なうものではありません。また、造影後急性腎障害の表現として造影剤腎症(Contrast-induced nephropathy)や造影剤性急性腎障害(Contrast-induced acute kidney injury)がよく用いられていますが、これは造影後の腎障害の機序が全て、造影剤によるものであることを想起させます。しかし、必ずしも造影剤のみが原因ではないので、我々は造影後急性腎障害(Post-angiographic acute kidney injury)がより適切な表現であると考え、表現を広めています。

Nephrol Dial Transplant 26: 1838-1846, 2011

Effects of chronic kidney disease and post-angiographic acute kidney injury on long-term prognosis after coronary artery angiography.

木村友則1、小尾佳嗣1、安田圭子3、佐々木公一3、武田吉弘3、永井義幸3、今井圓裕1、楽木宏実1、猪阪善隆1、林晃正2
1大阪大学大学院医学系研究科 老年・腎臓内科学、2りんくう総合医療センター市立泉佐野病院 腎臓内科、3同 循環器内科