低マグネシウム血症は2型糖尿病性腎症の腎予後不良因子である

マグネシウム(Mg)は生体内で4番目に多い陽イオンであり、解糖系などの300種以上の酵素反応に必須の元素です。2型糖尿病患者さんではMgの腎排泄亢進などの機序により、約3分の1の症例で低Mg血症が認められます。Mgは細胞内イオンであり、細胞内Mgが枯渇している潜在的Mg欠乏症例は更に多いと考えられています。Mg欠乏は糖尿病患者さんの血糖コントロールを悪化させるだけでなく、糖尿病性網膜症・神経症および心血管疾患発症の危険因子であることが報告されています。しかしながらMg欠乏と2型糖尿病性腎症との関連についてはこれまで十分に検討されていませんでした。

そこで私たちは当科でCKD教育入院を行った455症例(2型糖尿病性腎症:144例、非糖尿病性腎症:311例)に関して、血清Mg濃度と腎予後(透析導入、腎移植)との関連について検討しました。

上図に示す通り、2型糖尿病性腎症ではLow-Mg群(血清Mg濃度≦1.8mg/dL)がHigh-Mg群(血清Mg濃度>1.8mg/dL)よりも透析導入・腎移植に至るリスクが有意に高いことが判明しました。年齢、性別、腎機能、尿蛋白、HbA1c、血圧、内服薬などの背景因子のほか、カルシウム・リン濃度で補正しても有意性は維持されました。

血清Mg濃度を連続変数として扱った場合でも、血清Mg濃度の低下に従ってリスクが上昇することが確認できました(上図)。

一方、非糖尿病性腎症ではLow-Mg群とHigh-Mg群で腎予後に有意な差を認められませんでした。

本研究の結果から、低Mg血症は2型糖尿病性腎症の独立した腎予後不良因子であると言えます。今後、糖尿病性腎症に対するMg補充の腎保護効果が検討されるとともに、Mg欠乏がどのような機序で糖尿病性腎症を悪化させるかについての機序が明らかにされることが期待されます。

 

Diabetes Care 35: 1591-7, 2012
Hypomagnesemia in Type 2 Diabetic Nephropathy: A Novel Predictor of End-Stage Renal Disease
坂口悠介1、勝二達也1、林晃正1、鈴木朗1、清水盛浩1、光本憲祐1、川端裕彰1、新畑覚也1、岡田倫之2、猪阪善隆3、楽木宏実3、椿原美治1
1大阪府立急性期・総合医療センター 腎臓・高血圧内科、2同 臨床検査科、3大阪大学大学院医学系研究科 老年・腎臓内科学