個室のない透析室における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の血液透析の経験と実際

透析会誌54(4):177~181, 2021

寺元久美恵, 楠康生, 大河原桃子, 池田夏子, 山本聡子, 竹治正展

 

市立豊中病院は大阪府北部に位置する病床数613床の総合病院で、第二種感染症指定医療機関にも指定されており、2020年2月のダイヤモンドプリンセス号における患者受け入れから始まり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の診療を継続してきました。

当初COVID-19入院患者の血液透析を実施できる施設はかなり不足しており、大阪府からの要請に基づき当院も受け入れを検討することとなりましたが、院内の全個室には透析可能な配管設備がないため病棟個室での血液透析は難しく、また当院の人工透析室には個室がありません。そこで今回、感染防御についての各指針に則りつつ感染症病棟から透析室への患者移送ならびに個室のない透析室での血液透析を、院内感染を起こすことなく実施することができたので報告いたしました。

まずアイシールド・サージカルマスク・キャップ・長袖ガウン・手袋といった一般的な感染対策の個人防護具(personal protective equipment:PPE)を標準装備とし透析業務に当たりました。しかしCOVID-19患者の急増に伴い全国的にPPEが不足し、当院においても長袖ガウンの確保に難渋しました。そこで豊中市職員の協力のもと120Lのポリ袋から長袖ガウン(TPG:Toyonaka Poly Gownと命名, 図1)を作成し代用しました。

図1, Toyonaka Poly Gown(TPG)外観と着用時正面像

感染症病棟から透析室までの患者移送時には患者にサージカルマスクを着用してもらい、スタッフは必ず2名以上で移送を行う事としました。移送者は全員PPEを着用しますが、うち1人は人払いやエレベーターの操作などの経路確保および随時接触した箇所の消毒を行う人員とし、あくまで患者とは接触しない「非汚染者」としました。そして残る人員で車椅子やベッドを直接操作することにしました。

透析室における感染防御は、個室が無い場合にはCOVID-19患者と非感染患者との距離をとる「空間的な隔離」や、患者の滞在時間をずらす「時間的な隔離」を行う事が推奨されておりこれらを考慮する必要がありました。当院の透析室は縦長の構造で出入口が1つしかなく動線も1本であるため(図2)、COVID-19患者の滞在する区域である「レッドゾーン」を出入口付近には設置できず、奥にCOVID-19患者用として3床(①-③)を確保しレッドゾーンとしました。そしてPPEを外すところを「イエローゾーン」とし、手前の非感染患者用の4床(④-⑦)とスタッフの常駐する箇所を含む区域を「グリーンゾーン」としました。当初は空間的隔離のみでの運用を検討していましたが、透析室の通路が狭くCOVID-19患者が非感染患者の真横を通過する際に接触するリスクがあったことから時間的隔離も並行して行うこととし、非感染患者を月水金、COVID-19患者を火木土と曜日で振り分けました。

図2, 透析室のゾーニング

前述の方法で同時に3床までCOVID-19患者用の透析ベッドを確保することが出来ました。2020年10月2日までのCOVID-19の累積透析患者数は近畿地方で65例と報告されていましたが、そのうち当院では計17例の透析を行い、その受け入れ患者は大阪南部を含む広い範囲に渡りました。また幸い2020年10月の時点で入院患者に明らかな院内感染は発生しておらず、同年6月に実施した職員のSARS-CoV-2抗体検査では透析に関わるスタッフ全員が陰性であったことを確認しました。

隔離設備のない透析室であっても安全に患者移送および透析を行うことは可能であり、全国的にCOVID-19合併透析患者用のベッドが不足した際の参考になれば幸いです。