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甲状腺がんに関するよくある質問について回答します。

Q1 日本において甲状腺がんの患者が放射線の影響で増えているのですか?

A1 増えていないと考えられています。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書等、国内外から日本において甲状腺がんの患者が放射線の影響で増加する可能性は極めて低いとの 報告が出されています。

Q2 若年者の甲状腺がんは進行が速いと聞いています。見つかったら危ないのですか?

A2 若年者の甲状腺がんはがんの中でも最も予後の良いがんです。
若年者の甲状腺がんは通常すでに自覚症状が出ている段階、すなわち首に大きなしこりがあるような状態で見つかることが多く、そのような状態で見つかった場合しばしば遠隔転移を起こしています。また術後の再発率も中高年で見つかる甲状腺がんより高いです。しかし、若年者の甲状腺がんは治療に非常に良く反応するため、5年生存率はほぼ100%、生涯生存率は95%以上とあらゆるがんの中で最も良い成績を示しています。

Q3 若年で超音波検査でたまたま見つかった小さな甲状腺がんは治療せずにそのまま置いておくと中高年で見られる悪性度の高い甲状腺がんに変化するのですか?

A3 中高年で悪性化して症状を呈するようなものに変化する可能性はあるとしても極めて低いと考えられています。
小さな甲状腺がんは30代以降の成人では超音波検査を受けると高頻度で見つかります。このようながんを数十年にわたって手術をせずに経過を追って観察した千例以上のデータが集積されています。これらのがんの大部分は大きくなることはなく甲状腺がんが原因で死亡したり、未分化がん等予後の悪いがんに変化した例は報告されていません。これらのがんは10代―20代で発生していると考えられますので、10代―20代で超音波で偶然見つかる小さながんの大部分は若年のうちに大きくなってしまう一部を除けば一生涯臨床症状を呈するレベルの大きさになることなく経過し、ましてや遠い将来のがん死につながることはあるとしても極めてまれであると考えられます。また韓国において小さな甲状腺がんを多数切除したにもかかわらず甲状腺がんによる死亡率が低下しなかったというデータも、超音波でたまたま見つかるような小さな甲状腺がんががん死をもたらすような悪性度の高いがんに変化することはあるとしてもまれであるということを裏付けています。

Q4 超音波で甲状腺がんを早期に見つければ、その後の経過は良くなりますか?

A4 甲状腺超音波検査による早期診断のメリットは証明されていません。
若年者において甲状腺超音波検査で甲状腺がんを超早期に発見することがその後の経過を改善するとするデータは今のところ存在しません。無症状の対象者にがん検診として甲状腺超音波検査を実施することはメリットが明らかでない反面、過剰診断による無駄な治療につながりかねないため、諸外国の診療ガイドラインでは被曝歴のある子供であっても超音波検査による経過観察は積極的に推奨されていません。WHOの関連組織である国際がん研究機関(IARC)は原発事故後に住民に対して甲状腺がんを見つけるための集団検診はするべきでないという勧告を出しています。

・原子力事故後の甲状腺健康モニタリングの長期戦略 :IARC 専門家グループによる提言(環境省)

Q5 甲状腺超音波検査で偶然見つかった甲状腺がんが、将来症状を呈するものなのか、それとも過剰診断なのか、判定することはできますか?

A5 個々の例について判定することはできません。
過剰診断が起こっているかどうかは集団を観察して疫学的に評価しないとわかりません。すなわち、個々の症例が過剰診断例であるかどうかは患者が既に症状を呈している場合を除けば判断できません。超音波検査や細胞診で判断することは不可能ですし、症状が出る前に手術してしまっていれば病理診断でも過剰診断かどうかを判断することはできません。

Q6 見つかった腫瘍のサイズによって細胞診を受けるかどうかを慎重に考えれば、超音波検査による過剰診断の被害をなくすことはできますか?

A6 少なくすることはできるかもしれませんが限定的です。
韓国では2000年以降、甲状腺超音波検査の実施件数が増えた結果女性の甲状腺がんの罹患率が15倍になりました。手術例において半数程度はがんのサイズが5mm以上でした。すなわち、仮に5mm以下の結節は穿刺をしないという方針で診断したとしても、罹患率は8倍も増加しています。5mm以上の結節でも過剰診断がたくさん生じることを示しています。細胞診の適応に制限をかけることで過剰診断の被害は減りますが、その効果は限定的です。また、たとえ小さくてもがんを疑う結節がある、と知らされて精密検査を受けずにいるという判断をするのは若年者では困難であり、いったん超音波検査で見つかってしまえばがんという診断をつけられることを避けるのは難しいであろうと考えられます。

Q7 学会の出しているガイドラインに従って検査・治療を受けていれば、過剰診断の被害を被ることはありませんか?

A7 若年者ではわかりません。
国内各学会から甲状腺がんの診断・治療に関するガイドラインが出されていますが、これらは主として30歳以上の成人のエビデンスに基づいて作成されたものであり、若年者、特に小児に対してこれらに基づいた診療が適正であるかどうかは判断できません。

Q8 子どもに小さな甲状腺がんが見つかり、手術した結果転移や再発があった場合、過剰診断であった可能性はないのですか?

A8 このような状態でも過剰診断であった可能性は否定できません。
転移に関してですが、若年期に超音波検査で見つかる小さな甲状腺がんの多くが、超音波検査でしか見つからない程度の大きさで一生無症状で経過する微小がんというタイプのがんになると考えられています。このようながんであっても、手術をしたり、他の原因で死亡した際に解剖をしたりして詳しく調べると、首のリンパ節等にしばしば転移が見つかります。すなわち、甲状腺がんは転移があっても無症状のことが多い特殊ながんです。再発に関しては、アメリカのデータでは超音波検査が導入されて子どもの甲状腺がんが無症状の小さな段階で診断・治療されるようになってから、手術後の再発率は下がるのでなく逆に大幅に上昇しています(Hay ID et al, World J Surg 42:329-342, 2018)。このことから、子どもの症例に限れば、がんが非常に小さい段階での手術がかえって再発率の増加につながっている恐れもあります。これらのことから、若年期に発生する甲状腺がんに限っていえば、たとえ転移や再発があったとしてもその症例が診断しなければ一生気づかれなかったものであった可能性を否定することはできません。