原子力事故後の甲状腺モニタリングの長期戦略に関する国際専門家グループと「県民健康調査」検討委員及び甲状腺検査評価部員との意見交換会

上記については今後議事録等が公開されるかどうかは定かではありませんので、私の記憶している限りの内容について、下記に記載します。なお、記憶に基づいていますので、不正確な点、またかなり主観が入っている場合がある点についてはご了承ください。

A.国際専門家グループ専門家からの甲状腺の科学的な知見についての提供

20分x4演者の講演がありましたが、いずれがん検診・甲状腺に関する極めて基礎的な内容で、私にとっては目新しい話はありませんでしたが、他の委員の先生方には甲状腺に関する常識的な知識を確認する場になったかと思います。

1.Dr Andre Ilbawi (WHO)

がん検診の問題点について、早期発見のメリットがある反面、見つけなくても問題なかったがんを見つけてしまう過剰診断等のデメリットもあり、そのバランスをコスト・倫理的な問題を含めて最適化しないといけないという教科書的な話でした。

2.Prof.Gera;dine Thomas (Imperial College London)

甲状腺癌の一般的な話(組織型、予後、遺伝子異常)でした。子どもの甲状腺癌は組織型が特殊だが極めて予後が極めて良いこと、遺伝子異常に関しては年齢差や地域差が非常に大きいことを話されていました。個人的には自然史について解説する、とタイトルに書いてあり、イギリスはアメリカに次いで多段階発癌説推しの研究者が多いl国なので多段階発癌の例の奇天烈な図がでてくるのでは、と危惧していたのですが、結局自然史については曖昧なまま講演が終わりました。

3.Dr Juan P. Brito (Mayo Clinic) (ちょっと英語に癖があって聞き取りにくかったです。)

微小乳頭癌の経過観察の報告をされましたが、データは全て神戸の隈病院のものでした。提示された内容はよく知られていることで、1)小さな乳頭癌は非常に成長が遅く、若年者ではある程度増大するが高齢になると成長を止めること、2)経過観察しても誰も死ななかったこと、でした。

4.Dr. Louise Davies (Dartmouth College)

過剰診断および癌の経過観察における心理的側面について話されましたがデータはすべて隈病院のアンケートでした。過剰診断を考える上で、多くの一般人はがんは早期診断・早期治療をするのが正しいと信じ込んでいる点をどう説得していくかが悩ましいということを話されていました。

3、4とも内容はほとんど日本からのデータです。したがって、外国人が日本のデータを解説するのを日本人の委員が拝聴させていただいている、というなんとも奇妙な状況でした。

B. 意見交換会

1.高野の質問 (Prof.Gera;dine Thomasに対して)

「甲状腺癌の遺伝子異常は年齢・地域によるブレが大きいというデータを提示されたが、福島の症例において、遺伝子異常を検出することで患者の予後や放射線の影響かあるかどうか判定できる可能性があると考えているか?」

回答:(Thomasさんは話が”超”長いので有名な先生でこの単純な質問に対しても5分くらいしゃべっておられましたが・・ 結論は結局) 「まだわからない。」

分子診断については他の方も質問されましたが、Dr Christoph Reiners (Wurzburg Hospital)が「子供の甲状腺癌はそもそもほとんど死んだりしないのでそのような検査はするだけ無駄だ。」とおっしゃっていました。

2.他の質問・意見で重要そうなものを記載します。

明石真言先生が「がん検診が有用かどうかはメリット、デメリットの比較で決められるが、福島の場合は住民が放射線の影響を恐れているという特殊な要因が加わる。これをどう評価したらよいか。」と問われましたが、メンバーからは「難しい問題ですね。」ということで明確な回答はありませんでした。

津金昌一郎先生が2点重要な質問をされ非常に盛り上がりました。

1)甲状腺癌の経過観察のデータが提示されているが、これは大人のデータであり、子どもが主体の福島の場合は状況が異なる。むしろ超音波検査による過剰診断をどうやって抑制するかを考えていくべきであるが、なにか方策はあるか。」

これに対しては多くのメンバーがコメントをしましたが、あまり明確な回答はなく、結局「難しいですね。」ということでしょうか。また「福島で今後行われることを見て、これから同じような状況になったらどうしたらよいか、ということが分かってくるだろう。」という話も出ました。

★私見では子どもの甲状腺癌について、見つかったものの経過観察する方策を模索するのは無駄だと思っています。子どもの場合、癌が見つかってから半世紀以上も経過観察しないといけなくなりますし、進学・就職・結婚が控えています。そのようなイベントを乗り越えて何十年も癌を放置し続ける、という選択を子どもの親がするとは思えません。またそもそも福島で甲状腺検査を子どもに受けさせている親は子どもの癌を非常に心配しているので、経過観察に耐えられるような精神状態には置かれていないと考えられます。そのような親を説得して経過観察を薦める、というのも妙な話です。

2)チェルノブイリでの過剰診断と放射性誘導性の癌との割合はどうなのか?実際に検診で救われたと考えられる症例はどれほどいるのか?

これも核心を突くご質問でしたが、Prof Tronko (Ukraine's National Academy of Science)がチェルノブイリの事故があってから最初は過剰診断でないかと言われていたが調査するうち放射線の影響だ、ということになったという経過について長々と説明されていました。メンバーからは具体的な数字はでてきませんでした。

★私見では、チェルノブイリのデータは当時の混乱の中集められたものですので、なかなか解釈が難しいのですが、実際はかなりの過剰診断があったのではないかと考えています。超音波スクリーニングで命を救われたと確定できる症例を探すのも困難なように思います。これは今後の福島の検診をどうするか、の問題にもかかわってきますので是非再検討・再評価をしていただきたいものです。

2時間30分の間、話題のほとんどが過剰診断でした。放射線の健康影響については一言も語られることなく終わっています。国連の報告で決着済みと考えられているのでしょう。国際専門家グループの関心が放射線の影響から、甲状腺検査において住民の不安解消に努めながらいかに過剰診断の被害を最小化するか、という問題に移ってきていることがわかります。

 
大阪大学医学系研究科甲状腺腫瘍研究チーム:ホームへ戻る