Schnadig VJ Overdiagnosis of thyroid cancer (甲状腺癌の過剰診断). Arch Pathol Lab Med 142, 1018-20.

 http://www.archivesofpathology.org/doi/pdf/10.5858/arpa.2017-0510-ED?code=coap-site (Opne Access)

 テキサス大学の病理の先生が甲状腺癌の過剰診断について巻頭のEditorialで書いています。韓国・アメリカ・福島、はてはチェルノブイリの状況についてシンプルかつかなり辛辣に一刀両断しています。我々の2017年のEndocr Jをかなり参考にしています。下記に重要な部分を抜粋して和訳します。

知識は力だ!

医者が過剰診断の理解し、一般大衆が教育を受けることで甲状腺癌の診断と治療の数を減少させることはできる。しかし、これを実行する場合は相当な抵抗を覚悟すべきである。韓国では1999年に総合的ながん検診プログラムが開始された。この中で早期発見は良いことです、と宣伝されて有料の甲状腺超音波検査が同時に提供された。その結果、甲状腺癌の数は1993年から2011年の間に15倍になった。増加の原因はすべて乳頭癌で甲状腺の手術数は激増した。心配した臨床医たちは大衆の教育を決断し、それによって超音波検査数と手術数が減少に転じた。我々は韓国の例に倣って、診断・治療の手順を再考するよりも、むしろ教育を強化するべきではないのであろうか? それをしようとすれば超音波検査、細胞診その他の関連検査の市場関係者からの反発があるであろう。彼らは韓国の一部の外科医や内分泌医がそうであったように、「検査と治療を受けることは基本的人権だ」と主張するかもしれない。アメリカの放射線医と臨床医は過剰診断の流行を抑制する努力を開始している。The US Preventive Survices Task Forceは無症状の成人に対する超音波および触診によるスクリーニングについて施行すべきでないとしており、超音波検査と細胞診の潜在的な有害性について指摘している。放射線医らはCTでたまたま見つかった腫瘍に対する超音波検査や細胞診の実施について制限をかけることを提唱している。病理医と研修者はこれらの推奨とその結論に至った理由を学ぶべきである。

乳頭癌は子供によくある病変ではないのか?

 乳頭癌、特に子供の乳頭癌は転移しても死に至ることはまずない。高野は甲状腺癌の自然史について興味ある説を提唱し、また日本の研究データは乳頭癌は子供でよくみられる病変であることを示している。福島県の原発事故直後の超音波検査で乳頭癌は10万人あたり37.3人に認められた。これらのほとんどすべてが放射線とは無関係とされている。このような重要な情報が提供されたにも関わらず“不安の拡大”が発生した。日本の剖検例の解析では、乳頭癌の検出率は15歳から34歳まで上昇し、その後は増加しない。乳頭癌は甲状腺芽細胞(thyroblast)から発生し、幼年期と若年者では成長し、それから退縮したり、生命に影響しないレベルでゆっくり成長したり、成人で無症候の腫瘍として遺残したりするのであろう。がん死する甲状腺腫瘍はまれであり、高齢者で発生する。これらの発生母地は別物なのであろう。1年あたりの未分化癌の発生数は100万人あたり1−2人である。未分化癌の中には分化癌を伴っているものがあり、このことから未分化癌は分化癌から発生するのだと考えられてきた。この思い込みがたまたま見つかった乳頭癌を治療しないでおくと後になって未分化癌を発生させるのではないか、という恐れにつながっている。高野は最近この概念に反対する意見を出している。最近の甲状腺癌の発生母地や分子解析に関する理論では逆の現象も起こりえるのである。未分化癌は幹細胞から発生し、その後分化して乳頭癌や濾胞性腫瘍になっているのではないか。仮に乳頭癌が脱分化してがん死に至る未分化癌に変化するリスクを無視できない、ということであれば、偶発的にみつかる乳頭癌の頻度と未分化癌の頻度との間に極端な差があることを認識すべきである。無症状で偶発的に見つかるような乳頭癌を無治療で放置するとがん死につながる未分化癌が発生する、とするデータはまだ得られていないのである。無症状の偶発的な乳頭癌を持っている何千もの人々に未分化転化の恐怖を植え付けるのは残酷ではないだろうか。そしてそれは手術とその合併症の急上昇を促し、破滅へとつながるでことであろう。放射線の影響とされてきた乳頭癌の多くは実はnormalomas (正常細胞に限りなく近い腫瘍細胞)なのであろう。チェルノブイリに関連した乳頭癌の発生数や悪性度に関する過剰な判断は、高精度のスクリーニング、偽陽性の判定、それ以前ならば見逃されていた腫瘍の検出によるものであろう。扁桃腺や胸腺に放射線を照射された子供において、高齢になってから未分化癌や低分化癌の頻度が上昇するとするデータはない。放射線の外照射によって発生した甲状腺癌の悪性度が高いとする報告もほとんどない。放射線被曝の有無に関わらず、偶発的に見つかった乳頭癌をindolent lesion of epithelial origin (IDLE)と呼ぶのはどうであろうか。

*ちなみにこの論文で用いられているthyroblastという用語は、我々が最初に使ったものが世界中で使われるようになった和製英語です。


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