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先端科学イノベーションセンターA棟401

大阪大学大学院医学系研究科 JST-CREST

村上正晃

電話:06-6879-4856
FAX:06-6879-4706

E-mail:murakami@molonc.
med.osaka-u.ac.jp

研究実績

 

MHCクラス2にリンクした自己免疫疾患発症機構としての4ステップモデル

 自己免疫疾患とは、本来自分の体を病原体から守るべき免疫系が、自分自身の組織、臓器を攻撃して“難治性の慢性的な炎症”を誘導する病気である.多くの自己免疫疾患では、“慢性炎症”が誘導される標的臓器は限られている。例えば、関節リウマチの患者さんは、関節への慢性炎症反応がその病態を誘導する。これまで免疫学者は、このような自己免疫疾患ごとの標的臓器の特異性の理由を以下のように説明してきた:『本来正常な免疫系が持つ自己抗原に対するトレランスの破壊が原因』。つまり、免疫系の中でも抗原を特異的に認識する獲得免疫系の中心細胞CD4+T細胞がある臓器の特異抗原を認識してその臓器に慢性炎症を誘導する.この考え方は、ほとんどの自己免疫疾患が、遺伝学的にCD4+T細胞が抗原を認識するために必須なMHCクラス2分子にリンクすることからも広く支持されてきた。しかし、ほとんどの自己免疫疾患では、免疫系が攻撃している“自分自身の臓器の特異抗原”は特定されていないのが現状である。このことが自己免疫疾患の治療を難しくしている理由の一つである。 我々は、多くの自己免疫疾患に共通な発症メカニズムとして非免疫系の間葉系細胞内の“炎症アンプ”の活性化を報告した(Ogura et al., 2008)。さらに、今回、CD4+T細胞依存性の臓器特異的な自己免疫疾患の発症メカニズムを“炎症アンプの臓器特異的な活性化”として報告した(Murakami et al., 2011)。
 IL-6受容体を介するシグナル伝達経路を解析する過程で、IL-6シグナルの一部を欠損している変異受容体を発現しているいくつかのノックインマウスの作成を行った(Ohtani, 2000)。一連のノックインマウスのなかでIL-6信号伝達分子gp130の759番目に存在するIL-6信号の抑制分子SOCS3が結合するチロシン残基をフェニルアラニンに置換したノックインマウス、F759マウスは、関節リウマチに類似した慢性炎症性の関節炎(F759関節炎)を生後1年ほどで自然発症した(Atsumi et al., 2002)。F759関節炎にはMHCクラス2拘束性のCD4+T細胞が関与しているが、F759変異はCD4+T細胞には必要なく、非免疫系の細胞に存在する事が重要であった(Sawa et al., 2006)。F759変異を有した線維芽細胞等の1型コラーゲン陽性細胞に、過剰なIL-6-STAT3信号が導入されるとそれらの細胞からT細胞の生存因子、IL-7がF759変異依存的に過剰産生され、CD4+T細胞の恒常的な分裂の促進に伴う、活性化が誘導されて関節炎が発症した(Sawa et al., 2006)。F759マウスの恒常的に分裂・活性化されたCD4+T細胞からは、強力な炎症性サイトカインであるIL-17Aが大量に分泌するTh17細胞が多く存在し、非免疫系の1型コラーゲン陽性細胞にIL-17A-NFkB信号とIL-6-STAT3信号が同時に作用するとIL-6およびケモカインなどの炎症性サイトカイン群が相乗的に発現増強する機構“炎症アンプ”が活性化した。重要なことに炎症アンプの活性化は、F759マウスの関節炎のみならずに、ヒト多発性硬化症のモデル実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症にも関与した。これらの結果から、我々は、“非免疫系細胞での炎症アンプの活性化”が、多くの自己免疫疾患の根底に存在する慢性炎症の誘導メカニズムであると結論した(Ogura et al., 2008).
 次の疑問は『どうしてF759マウスは、関節炎のみを発症するのか?』であった。当初の作業仮説 “F759マウスに過剰に存在する活性化CD4+T細胞が、関節の自己抗原を認識して慢性炎症が誘導される可能性”は、関節抗原を認識しない1種類のTCRを発現する759マウスでも関節炎が発症することで否定された。その後、様々な変異マウスを用いた実験結果から、我々は、MHCクラス2遺伝子にリンクする臓器特異的自己免疫疾患の誘導機構を4つの事象に分解して、臓器特異的な慢性炎症を主調とする自己免疫疾患の発症のための“4ステップモデル”を提唱した(Murakami et al., 2011)。それら4つの事象とは、(1)CD4+T細胞の活性化、(2)活性化CD4+T細胞の標的臓器への集積、(3)標的臓器での一過性の炎症アンプの活性化(4)標的臓器のT細胞由来サイトカイン感受性の亢進である。“CD4+T細胞の活性化”はサイトカインのソースとして重要であるが、この活性化は必ずしも標的臓器抗原に特異的である必要は無い。“活性化CD4+T細胞の標的臓器への集積”は、必ずしも標的臓器抗原に依存している必要は無く、標的臓器局所での感染、外傷や異物、あるいは微小出血などによって誘導される慢性炎症などでも引き起こされる。さらに“標的臓器での一過性の炎症アンプの活性化”も引き起こされる。加えてF759変異のように、“標的臓器のT細胞由来サイトカイン感受性の亢進”、つまり、標的臓器にCD4+T細胞由来サイトカインを介してNF-kB やSTAT3の活性化が亢進するような遺伝的・先天的要因や、ウイルスや細菌感染等の後天的要因が考えられる。このような4つの事象が原因となって最終的には、“炎症アンプの標的臓器における慢性的活性化亢進”が生じて、大量のケモカイン等が局所で発現されて臓器特異的な慢性炎症に発展する。重要なことに、これらの4つの事象は、時間的な順番は関係なく、相互に密接に影響し合うとともに、それぞれの過程の自己免疫疾患の発症や病態への貢献度は、様々な疾患により異なると考えられる。F759関節炎ばかりではなく、臓器特異的な慢性炎症によって引き起こされる自己免疫疾患の発症一般に、 “臓器特異的な炎症アンプの慢性的活性化亢進”は重要な役割を担っていると考えられる。

文献
Atsumi, T., Ishihara, K., Kamimura, D., Ikushima, H., Ohtani, T., Hirota, S., Kobayashi, H., Park, S., Saeki, Y., Kitamura, Y., et al. (2002). A point mutation of Tyr-759 in interleukin 6 family cytokine receptor subunit gp130 causes autoimmune arthritis. J Exp Med 196, 979-990.
Murakami, M., Okuyama, Y., Ogura, H., Asao, S., Arima, Y., Tsuruoka, M., Harada, M., Kanamoto, M., Iwakura, Y., Takatsu, K., et al. (2011) J Exp Med 208, 103-114.
Ogura, H., Murakami, M., Okuyama, Y., Tsuruoka, M., Kitabayashi, C., Kanamoto, M., Nishihara, M., Iwakura, Y., and Hirano, T. (2008). Interleukin-17 Promotes Autoimmunity by Triggering a Positive-Feedback Loop via Interleukin-6 Induction. Immunity 29, 628-636.
Ohtani, T., K. Ishihara, T. Atsumi, K. Nishida, Y. Kaneko, T. Miyata, S. Itoh, M. Narimatsu, H. Maeda, T. Fukada、, M. Itoh, H. Okano, M. Hibi and T. Hirano (2000). Dissection of signaling cascades through gp130 in vivo: Reciprocal roles for STAT3- and SHP2-mediated signals in immune responses. Immunity 12, 95-105.
Sawa, S., Kamimura, D., Jin, G.H., Morikawa, H., Kamon, H., Nishihara, M., Ishihara, K., Murakami, M., and Hirano, T. (2006). Autoimmune arthritis associated with mutated interleukin (IL)-6 receptor gp130 is driven by STAT3/IL-7-dependent homeostatic proliferation of CD4+ T cells. J Exp Med 12, 1459-1470.

 

図の説明
F759関節炎はMHCクラス2およびCD4+T細胞に依存するが、CD4+T細胞の抗原認識には依存しなかった。F759関節炎の発症を詳細に検討した所、(1)CD4+T細胞の活性化に伴うサイトカイン発現、(2)活性化CD4+T細胞の標的臓器への集積、(3)標的臓器での一過性の炎症アンプの活性化(4)標的臓器のT細胞由来サイトカイン感受性の亢進の4つのステップが重要である事を示した。この4つのステップの結果として、 “炎症アンプの標的臓器における慢性的活性化亢進”が起こり、大量のケモカイン等が局所で発現されて臓器特異的な慢性炎症に発展することが判明した。さらに、実験的脳脊髄炎(EAE)の実験結果と合わせて考えると“CD4+T細胞の活性化”はサイトカインのソースとして重要であるが、この活性化は必ずしも標的臓器抗原に特異的である必要は無いこと、“活性化CD4+T細胞の標的臓器への集積”は、必ずしも標的臓器抗原に依存している必要は無く、標的臓器局所での感染、外傷や異物、あるいは微小出血などの“局所の事象”Local eventsによって誘導されることが推定される。

Local microbleeding facilitates IL-6– and IL-17–dependent arthritis in the absence of tissue antigen recognition by activated T cells.

Murakami, M.*, Y. Okuyama*, H. Ogura*, S. Asano, Y. Arima, M. Tsuruoka, M. Harada, M. Kanamoto, Y. Sawa, Y. Iwakura, K. Takatsu, D. Kamimura, T. Hirano. (*equal contribution) J Exp Med 208, 103-114 (2011) (PubMed) (Research Highlight in Nature Review Immunology)

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