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大阪府吹田市山田丘2-1

先端科学イノベーションセンターA棟401

大阪大学大学院医学系研究科 JST-CREST

村上正晃

電話:06-6879-4856
FAX:06-6879-4706

E-mail:murakami@molonc.
med.osaka-u.ac.jp

研究実績

炎症アンプ(IL-6アンプ)はさまざまなヒトの疾患と関連している。

局所炎症を誘導する分子機構『炎症アンプ(IL-6アンプ)』が、ヒトの様々な疾患や病態に関与することを全ゲノムを対象にした機能的スクリーニングの結果とヒト疾患関連遺伝子データベースとの情報とを照合する新たな方法によって明らかにしました。また、炎症アンプの機能的スクリーニングによって同定された遺伝子の1つである増殖因子エピレグリンについて詳細な解析を行い、エピレグリンの中和や細胞内信号伝達の遮断によって、関節リウマチや多発性硬化症の動物モデルの症状が劇的に改善されることを示しました。さらに、ヒトの関節リウマチ、多発性硬化症および動脈硬化の患者の血清中のエピレグリン量は、対照群と比較して有意に増加していることが分かりました。これらの結果は、大規模な機能的スクリーニングデータをヒト疾患の発症機構と関連づける新たな方法を確立するとともに、増殖因子エピレグリンがヒトの慢性炎症性疾患の疾患マーカーや治療標的として利用できる可能性を示唆しています。

Masaaki Murakami*#, Masaya Harada*, Daisuke Kamimura*, Hideki Ogura, Yuko Okuyama, Noriko Kumai, Azusa Okuyama, Rajeev Singh, Jing-Jing Jiang, Toru Atsumi, Sayaka Shiraya, Yuji Nakatsuji, Makoto Kinoshita, Hitoshi Kohsaka, Makoto Nishida, Saburo Sakoda, Nobuyuki Miyasaka, Keiko Yamauchi-Takihara, and Toshio Hirano# (*, equal contribution; #, correspondence)
Disease-Association Analysis of an Inflammation-Related Feedback Loop.
Cell Reports. 3: 946-959, 2013 (PubMed)

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<研究の背景と内容>
自己免疫疾患などの慢性炎症性疾患は、未だに根治が難しい病気です。最近では動脈硬化やメタボリック症候群、神経変性疾患などにも慢性炎症が関与していると考えられています。慢性炎症性疾患が難病である原因のひとつは、その分子レベルでの発症機構がよく分かっていないという点にありました。我々の研究室ではマウスの自己免疫疾患モデルを用いてこの分子機構について研究を進めてきました。炎症部位には免疫細胞の浸潤が認められますが、我々は、免疫細胞というよりはむしろ血管等を構成する内皮細胞や線維芽細胞といった非免疫系の細胞から多量の炎症性因子(IL-6などのサイトカインやケモカイン)が産生されることが自己免疫疾患の発症に重要であることをマウスの病気のモデルで明らかにしてきました。この炎症の根源ともいえる多量の炎症性因子の産生機構を『炎症アンプ』と命名し、その分子機構として転写因子STAT3とNF-kBの同時活性化が重要であることを以前から報告しています(図1)。今回の研究では、炎症アンプの分子基盤をより詳細に明らかにするために、特定の遺伝子機能を阻害することができるshRNAを利用して、約16,000遺伝子についてそれぞれ遺伝子機能を阻害し、炎症アンプの活性化に与える影響を網羅的にスクリーニングしました。その結果、約1000遺伝子が炎症アンプの活性化を制御していることが判明しました。さらに、炎症アンプの活性化によってどのような遺伝子が誘導されるかをスクリーニングするために、DNAアレイ法を用いて解析し、マウスの細胞において約500遺伝子、ヒトの細胞では約800の遺伝子が炎症アンプの活性化で発現する標的遺伝子であることが分かりました。
これまでの炎症アンプの研究はマウスを使った実験が多く、ヒトの病気に関係しているかどうかは推測の域をでませんでした。このことから、ヒトの疾患関連遺伝子データベースを利用するということを考えました。このデータベースにはヒトのさまざまな疾患に関係する遺伝子の情報が世界中から集められています。我々の行った3種のスクリーニングで同定された炎症アンプの制御遺伝子群および標的遺伝子群が、このデータベースの疾患関連遺伝子群をどれだけ含むのかを検討したところ、任意に抽出した遺伝子群と比較して、今回同定できた炎症アンプの制御遺伝子群および標的遺伝子群には有意に多くの疾患関連遺伝子が含まれることが分かりました。またその疾患関連遺伝子群には、自己免疫疾患に関するものばかりではなく、最近慢性炎症が関わることが示唆されているメタボリック症候群やアルツハイマー病等の神経変性疾患に関連するものも多く含まれていました(図2)。この結果は、炎症アンプがヒトのさまざまな疾患に関連することを示しています。また今回の研究で、全遺伝子を対象とするような大規模なスクリーニングで得られる大量のデータを、ヒト疾患関連遺伝子データベースの情報と照らし合わせることによって、ヒトの病気との関連性を明らかにするという新たな解析法(reverse-direction法)を確立しました。
我々はさらに、大規模スクリーニングによって同定した炎症アンプの制御遺伝子であり、標的遺伝子でもあり、また疾患関連遺伝子としても報告されている遺伝子である受容体ErbB1とそのリガンドエピレグリンについて詳細な解析を行いました。エピレグリンは可溶性の増殖因子であり、細胞表面の受容体ErbB1に結合して細胞内信号伝達を誘導します。細胞株の実験では、ErbB1受容体の機能を低下させるもしくはErbB1信号伝達の阻害剤を添加すると炎症アンプの活性化が大きく減弱し、反対に増殖因子エピレグリンを加えるとその活性化が有意に増強されました。また、関節リウマチや多発性硬化症のマウスモデルにおいて、エピレグリンの作用の抑制やErbB1信号伝達阻害剤がその病状を著しく改善することを証明しました(図3)。さらに重要なことに、関節リウマチ、多発性硬化症および動脈硬化の実際の患者さんの血液中のエピレグリン量は、健康な人たちの量よりも有意に増加していました(図4)。この結果は、増殖因子エピレグリンがヒトの慢性炎症性疾患の疾患マーカーや治療標的として利用できる可能性を示しています。

 

<今後の展開>
さまざまな慢性炎症性疾患をもたらす炎症アンプの活性化の制御遺伝子が明らかになったことで、これら遺伝子を標的とする新規創薬が可能となります。実際に製薬会社と共同で創薬化を目指しています。また本研究結果は炎症アンプの関与が示唆されるヒトの疾患を明らかにしたので、現在関節リウマチ等の治療薬として用いられている抗IL-6受容体抗体の適用疾患の拡大のための指針として利用できると考えられます。