第11回講演会開催と平成23年度研究助成課題募集のお知らせ(2010.9)

 

第11回講演会開催と平成23年度研究助成課題募集のお知らせ<2010.9.更新>

大阪小児感染症研究会では、第11回講演会を下記の要領で開催いたします。
今回は「先天風疹症候群」と「ヘリコバクター感染症」の特別講演を企画しました。どちらもこの分野を開拓された演者のお話であり、大変興味深いと思われます。質疑応答の時間も十分ありますので、興味をお持ちの方は是非ご出席くださるようご案内申し上げます。

日時: 平成22年10月16日(土)14:00-16:30
場所: 大阪大学中之島センター 10F 佐治敬三メモリアルホール

530-0005 大阪市北区中之島4-3-53(Tel:06-6444-2100; Fax:06-6444-2338)
京阪電車 中之島線 中之島駅または渡辺橋駅下車徒歩5分

●特別講演
私の小さなセレンディピティ“風疹の物語”
植田 浩司先生(西南女学院大学)
 漠然と小児の心身症に興味を抱き、『赤痢と体質論』の九大小児科(遠城寺教授)に入局(1959)。久大小児科のポリオ生ワクチン(Cox株)野外接種試験の助手3ヵ月、九大小児科ポリオ患児の予後調査で学位。ウイルス研究室がなかった九大小児科、新任の永山教授が“突発性発疹の原因ウイルス究明”を掲げた(1962)。ポリオ後の麻疹ワクチン研究会に加えていただき、病棟片隅の検査室をウイルス研究室にあてた。
突如、ウイルスと無縁の留学を命ぜられ、ウイルス研究は新進気鋭の大学院生に託され、私は米国ニューヨーク州バッファロー小児病院(1964-65)でChild Development Programの新生児臨床観察の仕事に従事した。たまたま1964米国風疹大流行、風疹情報洪水のなかで生活し、米国小児科学会(フィラデルフィア 1965)“風疹シンポジウム:司会Prof. Krugman”を聴いた。NIHのDr. Severを訪問し、日本の妊婦の風疹血清疫学調査が始まった。丁度その時、九大小児科は日本で最初に風疹ウイルスの分離(干渉法)に成功(永山・布上他:臨床ウイルス談話会1965)、その中に、私は帰学し、風疹研究に加わった。
そんなある日、突如、またもウイルスとは無縁の沖縄出張命令(佐藤総理米軍統治下の沖縄を訪問した佐藤総理により計画された日本政府派遣沖縄学童健診団の要員)。研究生活をやめる決心をして、沖縄行きパスポートを手に、JALに乗った(1966/5/23)。那覇到着の夜の歓迎会で、沖縄ルベオラ大流行(1965)の話を聞き、私の米軍統治下、琉球政府文教局管理下にある日本政府派遣の公務員の本務以外の先天性風疹症候群(CRS)の調査が始まった。次の日曜日、吉田小児科で沖縄CRS第1例に遭遇。西田博士(学童健診団耳鼻医)と風疹の聞き取り調査(学童健診対象校児童生徒・教師、小児科医・産婦人科医、新聞社等)を行い、沖縄風疹大流行による成人女性の罹患とCRSの出生が予想された。この情報に琉球政府厚生局は関心を示さず、沖縄小児科専門医会によるCRS検診を計画、那覇保健所で実施され、CRS 60例の出生が確認された(1966/6/28-29)。
パスポート入手のため九大熱帯医学研究会石垣島健診に参加し、帰途CRS検診を継続、1968年CRSは 282例に達し、琉球政府厚生局・文教局に対策の請願書を提出した。1969年1月日本政府沖縄CRS検診班が派遣され、全貌が解明され(CRS 408例)、福祉・教育の対策が開始された。当時、CRSは日本には稀、沖縄の多発は米国由来の強い催奇性の風疹ウイルス株の流行によるとの仮説が注目され(Kono R, et al. Lancet 1969)、日本の風疹生ワクチンの開発にも大きな影響を与えた。沖縄と本土の間の奄美群島に鍵を求めて飛んだ(1969)。CRS出生10例、異常に低い妊婦の風疹抗体陽性率が明らかになった。“血清疫学で日本の風疹の謎が解ける?”と感じた。ようやく可能になった風疹HI試験を唯一の武器に、無我夢中で、沖縄・奄美・南日本(福岡)に“わらじ疫学”を展開した。
様々な議論と社会問題を起こした風疹・CRSも“風疹・CRS排除2012”により終焉を迎えようとしている。この機会に、私のセレンディップ沖縄の旅1966に始まった私たちの風疹・CRS研究を回顧し、報告する。
「Helicobacter pylori感染症の病態 − H. pylori は撲滅すべきか?」
加藤 晴一先生(かとうこどもクリニック・院長、杏林大学医学部感染症学・非常勤講師)
 Helicobacter pylori(HP)は、独自の宿主からの免疫回避機構により「慢性感染」する極めてユニークなグラム陰性桿菌で、慢性胃炎、消化性潰瘍、そして胃癌や胃MALTリンパ腫の原因である。我々の多施設研究1) により、HPは小児期の慢性胃炎や消化性潰瘍の主因であることが判明した。HP慢性胃炎は、胃癌の発生母地とされる粘膜の萎縮・腸上皮化生を引き起こす。我々は、一部の感染小児に有意な胃粘膜萎縮が発生することも明らかにした2, 3)。HPの病原性関連遺伝子としては、cagAやcag pathogenicity island(cagPAI)を中心に検討されている。胃癌の発生率が高い日本において、HP感染対策は重要課題となっている。一方、消化管外疾患として、HPは鉄欠乏性貧血(IDA)や特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の発症に関連する。なかでもIDAは重要で、多くの大規模疫学研究は両者の関連を支持している4)。鉄の摂取不足、消化管出血、そして成長に伴う鉄需要の増加に加え、新たなIDAの原因としてHPが浮上している。
症例報告の多くが小児や若年者であることは特記すべきで、本邦小児においても両者の関連が示唆された5)。ヒトの鉄代謝におけるHPの障害機序は明らかでないが、HPによる宿主からの鉄取り込みは重要な仮説と考える。鉄イオンは細胞・細菌に必須で、宿主の鉄を巧みに利用している可能性がある。HPの鉄代謝関連遺伝子として、輸送・貯蔵に関わるfecA、pfr、feoBや、それらの発現を制御するfur遺伝子などが知られている。我々は、マイクロアレイ法によりHP 全遺伝子を検討し、いくつかの有力なIDA関連遺伝子候補を見出し、また上述の鉄代謝関連遺伝子の関与は否定的であることを報告した6)。
HP感染症の最大の謎は、「なぜ、関連疾患は一部の感染者だけで、多くの感染者に有害事象は発生しないか」である。HPは少なくとも5万年前からヒトに感染していると推測され、単に病原菌とすることに疑問が残る。最近の報告によれば、HP感染は食道腺がんの発症を抑制する7)。さらに、HPは小児期の気管支喘息などのアレルギー疾患に抑制的に働き、「衛生仮説」の一員との仮説も提出されている8, 9)。HP研究は、まさにこれからである。
(文献)
1. Kato S, et al. J Gastroenterol 39: 734-8, 2004.
2. Kato S, et al. Dig Dis Sci 51: 99-104, 2006.
3. Kato S, et al. Helicobacter 13: 278-81, 2008.
4. DuBois S, et al. Am J Gastroenterol 100: 453-9, 2005.
5. Kato S, et al. J Gastroenterol 39: 838-43, 2004.
6. Kato S, et al. Gut 57 (suppl 2): A119, 2008.
7. Blaser MJ, et al. Cancer Prev Res 1: 308-11, 2008.
8. Cover TL, et al. Gastroenterology 136: 1863-73, 2009.
9. Blaser MJ, et al. Gut 57: 561-7, 2008.
演者による日本語参考文献として
1) 加藤晴一:幼児・学童へのHelicobacter pylori感染症の病態と治療 小児科 51:817-23, 2010.
2) 加藤晴一:小児の除菌法 日本臨床 67:2311-6, 2009.
3) 加藤晴一:H. pyloriの感染経路 実験治療 688:6-9, 2007.

これを機会に新会員も随時受け付けております。前もって事務局へご連絡くださるか、直接に会場へお越しください。会費は無料です。会員には毎回の講演会や研究助成に関するニュースをお送りしています。


大阪小児感染症研究会研究助成課題を募集します

さて、20年度分から「大阪小児感染症研究会研究助成事業」を開始しました。毎年数件が採択されています。少額の助成ながら23年度も同様の事業を行います。「募集要項」と「研究助成金申請書」をお送りしますので、会員のかたはふるって申請していただきますようお待ちしております。
なお、11月末日が申請受付締切日です。当会執行部会の構成員(世話人、監事、顧問)の推薦を受けたうえ、締切日までに事務局へ必要書類を電子メールでご提出ください。書類は事務局へご請求ください。

助成の趣旨  小児の感染症学分野における研究を推進し、小児医学の進歩、小児の健康に寄与することを目的とする。
対象課題    小児感染症学に関連する研究で、小児の健康増進、疾病の予防と治療に役立つものとする。
対象者      大阪小児感染症研究会の会員であること。1年に1件しか応募できない。
推薦者      大阪小児感染症研究会の執行部員であること。1年に1件しか推薦できない。
応募   1)応募方法  所定の様式に必要な事項を記入し、推薦者を通じ本会事務局に提出する
     2)応募締切  毎年11月末日(必着)までとする。
     3)申請額    研究に要する物品、消耗品の購入にあてる(人件費には当てられない)
      ものとし、10万円を基準額とする。
選考と採否通知  本会執行部会で決定し、決定後1か月以内に申請者に通知する。
助成金交付    決定後1か月以内に交付するので、領収書を本会事務局まで送付すること。
成果報告    研究成果と会計報告(領収書添付)を所定の様式で該当年度末に本会事務局へ
            報告しこれを執行部会で確認する。また研究会で発表を依頼することがある。
            研究成果刊行に際して大阪小児感染症研究会研究助成によった旨を記載する。


これまでの
研究助成採択課題一覧

平成20年度採択研究課題(3題)
  1 好中球減少時発熱における起炎菌のリアルタイムPCRを用いた同定に関する検討
   坂田尚己、上田悟史(近畿大学医学部小児科)
  2 インフルエンザにおける鼻腔中ウイルスと臨床的重症度との関連性の解析
   圀府寺 美、木野 稔(中野こども病院)、伊藤正寛(京都市東山保健所)
  3 堺市における市販食肉中の腸管出血性大腸菌汚染状況について
   田中智之、横田正春、沼田富三、下迫純子、大中隆史(堺市衛生研究所)

   いずれも第8回講演会で成果が報告された。

平成21年度採択研究課題(2題)
  1. RSウイルス感染に対するγ−グロブリン単独治療あるいはステロイドパルスと
        γ−グロブリンの併用療法の治療効果 三好 洋子(市立箕面病院小児科)ほか
  2. 小児呼吸器感染症におけるRSウイルスおよびヒトメタニューモウイルスの流行状況
   田中 智之(堺市衛生研究所)ほか

平成22年度採択研究課題(3題)
  1.ウレアプラズマ胎内感染とその後の新生児合併症の研究
                     柳原 格 (母子保健総合医療センター研究所免疫部門部長)
  2.新型インフルエンザにおける鼻腔中のウイルス量と臨床所見との関連性に関する研究
                    伊藤正寛 (京都市東山保健所・所長)ほか
  3.LAMP法によるA型および新型(H1pdm2009)インフルエンザウイルス検出の臨床的検討                中井英剛 (藤田保健衛生大学医学部小児科)


代表世話人 大薗恵一
事務局 岡田伸太郎、上田重晴
565-0871 吹田市山田丘3-1
(財) 阪大微生物病研究会内
Tel:06-6877-4804
Fax:06-6876-1984

 

   
   
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