2025年秋の講演会のお知らせ <2025.10更新>
第38回講演会を、下記の要領にて開催いたします。
特別講演といたしまして「感染症とワクチン −最近変わったこと、これから変わりそうなこと−」という演題にて、中野 貴司 先生(川崎医科大学 小児科学 特任教授)にご講演いただきます。また一般演題の発表も2題予定しております。
なお今回の講演会も、参加事前申込制のオンライン開催を予定しております。
会員の方々には、講演会のご案内を郵送します。会員以外の方々も、どうか多数ご出席くださいますようお願いいたします。(本講演会は医療関係者を対象としております。)
本講演会の担当世話人は、松野 良介 先生(関西医科大学 小児科学教室)、松村 英樹 先生(大阪医科薬科大学 小児科)です。
共催:大阪小児感染症研究会・一般財団法人 阪大微生物病研究会
参加申込方法
今回より登録方法が変更になりました。
参加をご希望の方は、下記URLから必要事項をご入力のうえ、お申し込みください。
https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_z7v8ga50T_-wVe05TtiI9g
・申込締切【10月31日(金)】の期限厳守にご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
大阪小児感染症研究会(代表世話人:北畠 康司)は、ウェビナー登録時にご提供いただいた氏名・所属等の個人情報を、本研究会の視聴登録確認、URL発行および運営に必要な連絡、ならびに今後開催する大阪小児感染症研究会のご案内のためにのみ利用し、その他の目的には使用いたしません。
<<講演会>>
日時:令和7(2025)年11月6日(木)19:00〜21:00 |
方法:ライブウェブ配信(zoomウェビナー) |
<<講演要旨>>
| ■19:15-19:55 一般演題 |
| ①トスフロキサシンによる薬剤性腎性尿崩症の1乳児例 |
| 演者 福井 百合(関西医科大学附属病院 小児科) |
【背景】
トスフロキサシン(tosufloxacin: TFLX)はフルオロキノロン系抗菌薬で、マクロライド耐性肺炎マイコプラズマ感染症に対する治療薬として有効性が示されており、わが国では小児の適応承認も受けている。しかし腎障害や消化器症状といった副作用も報告されている。今回、TFLXが原因と思われる腎性尿崩症(nephrogenic diabetes insipidus: NDI)の乳児例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
【症例】
22か月の男児。急性中耳炎に対してアンピシリンとセフジトレンピボキシルを投与されたが効果が乏しく、TFLX (12mg/kg/日) に変更された。投与開始2日後より著明な多尿と口渇が出現し、夜間尿量は470 mLに達した。入院時、血清ナトリウム 140 mEq/L、血漿浸透圧283 mOsm/kgであるにも関わらず血漿バソプレシン(ADH)値は9.8 pg/mLと高値を示した。一方、尿浸透圧は273 mOsm/kg、比重1.009と低張尿で、尿中アクアポリン2(AQP2)濃度は検出感度未満と低下していた。尿沈渣では針状結晶と上皮円柱を多数認め、薬剤溶解試験よりTFLX由来の結晶と同定した。以上の所見からTFLXによる薬剤性NDIと診断し、TFLXを中止したところ、尿量は速やかに減少し、中止後7日目には尿中の結晶と円柱も消失し、尿中AQP2濃度や血漿ADH値も改善した(それぞれ4.5 ng/mL、4.2 pg/mL)。
【考察】
文献上、TFLXの腎障害に関する報告は散見されるものの、NDIの報告は極めて稀である。本症例では、TFLX投与後に水利尿による多尿が出現したこと、TFLXの投与中止により速やかに多尿が改善したこと、また血漿バソプレシン高値にもかかわらずAQP2が著減していたことから、TFLXによる薬剤性NDIと診断した。発症機序としては、TFLX結晶が集合管内に沈着したことによる物理的障害が、ADH依存性のAQP2の膜輸送を阻害し、尿の濃縮障害を起こしたと考えられた。乳児においては腎濃縮機能が未熟であることから、結晶性腎症やNDIのリスクが高いものと推測された。
【結語】
乳幼児に対するTFLXの投与は、重篤な腎合併症を引き起こす可能性があるため、適応は慎重に判断すべきである。
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| ②髄液multiplex PCRから診断されたヒトパレコウイルス感染症の1例 |
| 演者 岡本 昌之(市立ひらかた病院 小児科) |
【症例】
日齢39の女児。38℃台の発熱と腹部膨満を主訴に前医を受診した。診察時、顔色不良と腹部膨満を認めており、低月齢での発熱のため精査加療目的で当科へ紹介となった。来院時、発熱、頻脈があり四肢抹消に冷感と網状皮斑を認めた。著明な腹部の膨満がみられた。fever work upを行い、CTXを投与して経過観察とした。発熱とともに頻脈、多呼吸が持続し、入院2日目よりHFNCを開始した。入院時の髄液検査では有意な細胞増多は認めなかったが、髄液multiplex PCR検査でヒトパレコウイルスが検出され、ヒトパレコウイルス感染症と確定診断した。入院4日目より解熱とともに、頻脈、多呼吸も改善するようになり、HFNCを中止した。咽頭培養からGBSの検出があり、抗菌薬は計7日間投与した。解熱後は再発熱することなく経過し、入院9日目に軽快退院とした。入院中にけいれんや意識障害、無呼吸などの中枢神経症状は認めなかった。
【まとめ】
ヒトパレコウイルス感染症の1例を経験した。本例では敗血症様症状をきたしたものの、中枢神経症状などの合併もなく、対症療法のみで自然軽快した。特徴的な臨床症状より本症を疑い、髄液PCR検査が診断に有用であった。本症の臨床症状や検査所見の特徴などを認知しておき、新生児や、早期乳児の発熱の際の鑑別に挙げることが重要である。
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| ■19:55-20:55 特別講演 |
感染症とワクチン −最近変わったこと、これから変わりそうなこと− |
| 演者 中野 貴司(川崎医科大学 小児科学 特任教授) |
COVID-19パンデミックにより、子どもたちの疾病流行は大きな影響を受けた。徹底された手指衛生とマスク着用、行動制限により、2020年は感染症全般の流行が抑制されたが、その後は各疾病が再興した。RSウイルス感染症は2021年、例年より数か月以上早く春に流行期入りし、夏に向けて過去を凌ぐピークとなった。RSウイルスの予防手段として、母子免疫ワクチンや長期間作用型抗体製剤が登場し注目される。
インフルエンザは、2023-24シーズンは1年近くにおよぶ流行継続があり、検出ウイルスもA/H1N1, A/H3N2, B型など多岐にわたった。2024-25シーズンはA/H1N1ウイルスが12月中旬頃から急峻な流行となり、年末には1週間の定点当たり報告数が過去最大となるピークをむかえたが、年明け早々に収束した。抗インフルエンザウイルス薬はノイラミニダーゼ阻害薬に加えてキャップエンドヌクレアーゼ阻害薬が使用され、予防ワクチンはこれまでの不活化HAワクチンに加えて、2歳〜18歳には経鼻弱毒生ワクチンが使用可能となり、高齢者用の高用量HAワクチンも承認された。
肺炎マイコプラズマと百日咳の大規模な流行拡大も注目された。これら2疾患では、マクロライド耐性菌という共通の課題がクローズアップされた。元々感染症罹患の多い小児は、薬剤耐性(AMR)への対策が最も必要とされる対象でもある。現状の診療はもちろん、未来の小児に使用できる抗菌薬を確保するためにも、適正使用を心がけたい。百日咳は、ワクチン予防可能疾患でもある。定期接種として、5種混合ワクチンを2か月齢になったら接種開始し、必要な回数を忘れずに接種することは第一の優先事項である。加えて、ライフコース予防接種の流れの中で、妊婦への接種を含め、成人でのワクチンの有効な活用法も議論が継続されている。
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ご不明の点があれば当研究会事務局「kansen*ped.med.osaka-u.ac.jp」あてに電子メールでお問い合わせください。
(お願い:メールで連絡を送る際には、上記*を、@に変えてお送りください。) |
大阪小児感染症研究会代表世話人 北畠康司
事務局担当世話人 外川正生、山本威久