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第12回講演会のお知らせ

 

第12回講演会のお知らせ <2011.2.更新>

 大阪小児感染症研究会の主催する第12回講演会を下記の要領で開催いたします。
 昨年の「新型インフルエンザ」流行の折、たまたま近畿から患者が発生したこともあって、大阪府公衆衛生研究所が中心となり大変有益な疫学調査ができたと聞いています。そこでチームの中心として活躍された高橋先生にお出でいただき特別講演をしていただくことになりました。質疑応答の時間も十分にとってありますので、興味をお持ちの方は是非ご出席ください。また、同時に平成22年度研究助成課題の成果も3題発表することになっています。ご期待ください。
 会員の方々には間もなく講演会のご案内と出欠はがきをお送りしますので、できるだけ多数ご出席願います。

日時: 平成23年4月2日(土)14:00-16:40
場所: 大阪大学中之島センター 10F 佐治敬三メモリアルホール

    530-0005 大阪市北区中之島4-3-53(Tel:06-6444-2100; Fax:06-6444-2338)
    京阪電車 中之島線 中之島駅または渡辺橋駅下車徒歩5分
    大阪市バス 53系統 船津橋ゆき 中之島4丁目下車すぐ (大阪駅前13:42発が便利)

<<特別講演(15:20-16:20の予定です)>>
「パンデミックインフルエンザ2009  その感染様態と免疫」
 高橋和郎 先生(大阪府立公衆衛生研究所副所長兼感染症部長)

 このパンデミックウイルスは基本的にH1N1亜型のブタインフルエンザウイルスで、トリとヒトのインフルエンザウイルスの一部の遺伝子が含まれるハイブリッドウイルスである。ウイルスの抗原性からみると、今まで流行していた季節性のソ連型H1N1亜型とは交差反応は少なく、むしろスペイン風邪と交差反応性が高い。よって、多くの年代の人、特に小児ではこのウイルスに対してほとんど免疫を持たないため、小中学校、幼稚園、保育園を中心に蔓延した。
 季節性インフルエンザと比較した場合、パンデミックインフルエンザの臨床上の最も大きな特徴は、肺炎を起こしやすい点である。肺炎の発症頻度は高く急激に進行し呼吸不全となる例が多くみとめられた。200例を超す死亡例の少なくとも約6割は肺炎が原因であり、しかも、季節性ではほとんど見られない40-60歳の壮年期の健常人で急に呼吸不全となり死亡する例が認められた。サルやフェレットでの感染実験では、このウイルスは季節性ウイルスに比べ肺の特に奥深い部位で1000倍ほどよく増殖する性質があることが明らかになっており、このことが肺炎になりやすい主たる原因であろうと考えられる。
 私たちの調査では、高校生の集団でパンデミックインフルエンザに感染した生徒(高い特異中和抗体を獲得した人)の中で、インフルエンザの典型的な症状を示した例が約50%、軽症の症状であった例が約30%、症状のない不顕性感染例が約20%であった。これらの感染例において獲得した抗体価を比較すると、不顕性感染の場合より典型的症例の方が有意に高い抗体価を獲得していた。インフルエンザの典型的な症例の方がウイルスの増殖が強く、強い症状を呈して免疫系をより刺激するためではないかと考えられる。
 昨シーズンの流行期では、壮年から高齢者での発症例が少なかったが、すでに免疫を保有していたのであろうか?このウイルスはスペイン風邪ウイルスとその子孫のウイルスに近縁であるので、80歳以上の人の約半数は特異抗体を保有し、壮年層でも約20%の人は抗体を保有するという報告がある。このことはH1N1ソ連型季節性ウイルスに対する抗体はパンデミックウイルスに交差反応を示すことを示唆している。また、成人において1回のパンデミックウイルスワクチン接種でも78%の人は抗体を獲得する。この事実も、成人ではこのウイルスに交差する抗体の免疫記憶をすでにある程度保有しているということを示唆している。本セミナーではこのような点に焦点をあてパンデミックインフルエンザについて考えてみたい。

平成22年度研究助成課題成果報告 (14:00-15:10各報告20分間の予定です)
1.「ウレアプラズマ胎内感染とその後の新生児合併症の研究」
 柳原格(大阪府立母子保健総合医療センター研究所免疫部門部長)
 先進諸国では早産の比率が上昇している。また、わが国では年間およそ8万人が早産で出生し、そのうちの約半数に感染や炎症が関与する。早産で出生した子供には重度の呼吸器障害や、神経障害などが合併することがある。妊娠期間中、お母さんは赤ちゃんを拒絶しないように免疫的な機構を抑えている。この時期、予想もしない低病原性細菌による感染が問題となる。我々は、培養の困難な病原性の弱いウレアプラズマという細菌に着目し解析を行ってきた。センターの早産胎盤の解析で、ウレアプラズマはその42%から検出された。また、特徴的な二層性の好中球浸潤(羊膜内、絨毛膜下)を起こすといった新たな病理所見も見出した。これらの解析を通じて、胎盤では、お母さん、あるいは赤ちゃんがそれぞれに反応し外敵から守ろうと反応していることも示された。また、弱いとされる病原性についても、マウスを用いた実験で早産を惹起するリポ蛋白質の同定に成功したので、あわせて報告する。
2.「新型インフルエンザにおける鼻腔中のウイルス量と臨床所見との関連性に関する研究」
 伊藤正寛(京都市伏見保健センター、衛生環境研究所)ほか

 [目的] Influenza (H1N1)2009 virusをreal-time RT-PCR法を用いて検出し,ウイルス量と迅速診断キットの判定結果や臨床症状との関連性について検討することを目的とした。
 [対象と方法]Real-time RT-PCRは Pabbarju K et al. (JCM 2009.47:3454)に報告された方法を用いた。対象は2009年7月から2010年2月の京都第一赤十字病院小児科入院例とすずかこどもクリニック(鈴鹿市)受診例である。鼻腔スワブまたは鼻腔吸引液を採取し、鼻腔スワブは2mlの培養液に攪拌し,鼻腔吸引液は2mlの生理食塩水を添加し、迅速診断キットおよびRNA抽出後Real-time RT-PCRを行った。
[結果と考察]鼻腔スワブ, 鼻腔吸引液中におけるinfluenza(H1N1)2009 virus のRNAコピー数は2.8-10.0 log10 copies/mlであった。迅速診断キット陽性検体中の平均ウイルスRNAコピー数は陰性検体より有意に多かった。入院時におけるSpO2,臨床診断,呼吸困難の程度とウイルスRNAコピー数には相関は認められず,ウイルスRNAコピー数は臨床症状の重症度を反映していなかった。今後一定の採取条件によって得られた臨床検体をreal-time RT-PCR法を用いてウイルスRNAコピー数を測定することにより迅速診断キットの感受性や病態の解明に応用が可能である。

3.「新型インフルエンザ患児における血清中サイトカイン・ケモカインの検討−病態との関連性はあるか?−」
 松本祐嗣(藤田保健衛生大学医学部小児科)ほか
 昨年の新型インフルエンザウイルス(AH1 pdm 2009)感染の流行に伴い、年長児での重症肺炎症例が多数発生した。また、それに加え、これまでの季節性インフルエンザに見られたような、熱性痙攣、異常言動や異常行動を合併した症例も多く経験された。動物モデルを使った解析では、季節性インフルエンザウイルスに比べ今回のAH1 pdm 2009は肺での病原性が強く、局所でのサイトカインやケモカイン誘導能が強いことも明らかにされている。そこで今回我々は、AH1 pdm 2009感染に伴う特徴的な臨床像と宿主サイトカイン・ケモカインとの関連性を明らかにすることを目的に研究を行った。大学病院ならびに豊川市民病院に入院し、本学で実施したLAMP法あるいは愛知県衛生研究所でのPCR法によりAH1 pdm 2009感染の証明された52例について、入院時血清中サイトカイン、ケモカインを測定した。臨床病型毎にそれらバイオマーカーの値を比較し報告する。

なお、平成23年度から執行部員構成メンバーがかわりますので、詳細は追ってお知らせいたします。

大阪小児感染症研究会代表世話人 大薗恵一
                                    事務局担当世話人 岡田伸太郎、上田重晴

 
  
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