われわれの体を守る第一線の監視・防御システムとして粘膜免疫が注目されている。ヒトの体は簡単に見ると筒状になっており、口腔からはじまり、呼吸器・消化器を被う粘膜が内側を形成して常に外界に暴露されている。つまり「内なる外」を形成している。われわれは毎日食べたり、飲んだり、そして呼吸しながら、粘膜面から多種多様な異物を取り込んでおり、病原微生物の侵入にも曝されている。その粘膜で被われた組織・臓器にはユニークな粘膜免疫システムが存在している事が、1970年代からの研究により明らかになってきており、粘膜免疫学という新潮流を生み出してきた。
粘膜免疫システムは抗原の有用性と有害性を識別し、生体に有用な食物抗原や共生細菌に対しては寛容に代表される「消極的な応答」を誘導・維持している。一方で、病原微生物に対しては「積極的な応答」を誘導して、その侵入阻止・排除をしている。つまり「口腔から始まる消化器はわれわれの体にとって最大且つ巧みな免疫システム」とまで言われるようになってきた。近年では、粘膜免疫系を介した消化管における共生細菌も含めた外部環境との共存共栄関係の構築・維持システムが再注目されている。さらに、新興・再興感染症を引き起こすほとんどの病原微生物の侵入門戸である粘膜での免疫機構、つまり、粘膜免疫を駆使した感染症制圧へのアプローチが期待そして注目され、その応用性を支持する理論的・技術基盤の確立が日夜進行している。粘膜免疫システムのユニーク性とそれを駆使した次世代ワクチンとして、医学・獣医学・農学・工学異分野交流による「経口ワクチン」開発の研究も展開されており、それら最新情報についても紹介する。
参考文献・図書
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