大阪小児感染症研究会主催・2013年秋の講演会のお知らせ

 

大阪小児感染症研究会主催・2013年秋の講演会のお知らせ  <2013.8.更新>

 当会主催の17回講演会を下記の要領で開催いたします。
 秋の講演会では今年流行が問題となっている「風疹」と、着実に患者増があるにもかかわらず注目度の低いHIV/AIDSの2つの感染症をとりあげます。「風疹」は「今回の流行のピンチを、風疹や先天性風疹症候群(CRS)の国内排除のチャンスととらえた施策をとりたい」(2013-07-11 Medical Tribuneに寄稿)と強調しておられる理化学研究所の加藤茂孝先生からお話を聞きます。また、HIV/AIDSについては、長らく大阪で治療に当たってこられた大阪市立総合医療センターの専門家2名(外川正生先生と白野倫徳先生)から詳しいレポートをしていただく予定です。ぜひご期待ください。
 会員の方々には9月中旬ごろ講演会のご案内を郵送します。会費や参加費は無料ですので、会員以外の方々もどうか奮って多数ご出席下さいますようお願いします。
 9月にご案内が届きましたら、出欠は次の2つのどれかでご返事ください。

a. 郵送するご案内に同封の「FAX出欠回答用紙」に記入の上、事務局あてFAXする。
b. 氏名と所属を明らかにして「kansen@ped.med.osaka-u.ac.j」へ出欠を電子メールで知らせる。

<<講演会>>

日時:平成25年10月19日(土)14:00〜17:00(定例の開始時刻です)

なお、講演の順序は現時点ではまだ確定していませんが、9月には確定します。

場所: 大阪大学中之島センター10F 佐治敬三メモリアルホール

〒530-0005 大阪市北区中之島4-3-53(Tel:06-6444-2100; Fax:06-6444-2338)
    京阪電車 中之島線 中之島駅または渡辺橋駅下車徒歩5分
    大阪市バス 53系統 船津橋ゆき 中之島4丁目下車すぐ

<<講演要旨>>

1) 小児HIV/AIDS診療の光と蔭

大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児総合診療科・小児救急科
外川正生先生

 エイズが初めて報告されて30年を経過した今、世界のHIV感染拡大に歯止めがかかろうとしている。国連合同エイズ計画(UNAIDS)によれば2011年末現在で世界のHIV陽性者数は3400万人(2001年より15%増)、新規HIV感染者数は年間250万人(2001年より20%減)である。とりわけ15歳未満の新規HIV感染者数が33万人で2001年より40%減を達成できたのは後述の母子感染を予防する治療が普及した国が増えたことによる。UNAIDSは予防プログラムの規模拡大が必要な国や地域がまだまだ多いことから、2015年までに母子感染をなくすことを宣言した。具体的行動計画は、90%の女性にWHO基準の治療・新規感染を50%減・家族計画の実施・人工乳を12ヵ月とした。
 わが国のエイズ発生動向調査(サーベイランス)は1984年から開始されたが、小児HIV/AIDS診療の歴史は1985年以降に急増した非加熱凝固因子製剤による感染者に始まり(その審査・解析は厚生省「HIV感染者発症予防・治療に関する研究班」が行うようになった)、やや遅れ1990年から報告され急増した母子感染例の解析へと続いた。1994年に母子へのAZT投与(妊娠中内服・分娩時点滴・生後6週間内服)が母子感染を1/3に減らす治療が発表されると、瞬く間に日本を含む先進国が採用し、わが国の母子感染発生例は1996年以降減少に転じた。さらに選択的帝王切開(母体ウイルス量が1000コピー/mL以下には不要論あり)と人工乳にすることで母子感染は1%未満となることが明らかとなり、「母子感染は予防できる」と表現されるようになった。
 このような経緯から2000年以降にわが国で報告される母子感染は2年に1例程度となった。
 演者はちょうどこの30年間に医師となり、わが国小児エイズ診療黎明期(1994年)に病期の進行した2歳の母子感染例と出逢ったことが契機となり、母子感染予防をテーマとする厚労科研班に加わり(1999年)、HIV感染女性からの出生児についての全国調査を行い15年が経過した。最初の自験エイズ症例は救命できなかったが、続く症例では抗ウイルス薬療法の進歩から免疫と健康の回復を確認できた。当院で妊娠中から管理できた感染女性の子どもは例外無く非感染であった。
 講演では全国調査成績を紹介し、今でも「例外」的に感染する子どもの背景や非感染の子どもの課題などについて述べたい。
2) HIV/エイズ診療現場からのメッセージ
大阪市立総合医療センター 感染症センター  白野倫徳先生
 我が国におけるHIV感染者数は依然として増加の一途をたどっており、エイズを発症し重症となってからようやく診断されるケースも少なくない。この要因は本人の受診の遅れ、医療機関での診断の遅れなど様々である。まだまだ教育、予防啓発、診療体制は十分であるとは言えない。
 HIV感染症の自然経過では、感染後間もない急性HIV感染症の時期や、エイズ発症前の免疫力低下時に、発熱、皮疹、下痢などの症状を呈することがある。これらの症状で受診した際にひとこと性交渉歴を問診するだけで、鑑別診断に挙げるかどうかが大きく変わってくる。初診時にはなかなか訊きにくい項目ではあるが、性交渉歴についての問診は重要である。また、都市部を中心に、中学生、高校生の急性HIV感染症の症例が報告されている。十分な性教育を受けないまま性行為に及ぶケースも多い。小児科領域においても、特に思春期ではHIV感染症は鑑別診断の片隅においておくべきである。
 HIV感染症の治療薬は飛躍的な進歩を遂げ、服用回数や副作用の点も改良された。生命予後も非感染者との差は小さくなっている。早期発見し、早期治療につなげることが重要である。一方、生命予後の改善とともにHIV感染症は慢性疾患となりつつあり、さまざまな長期合併症も注目されるようになった。糖尿病、高脂血症、心血管障害、骨粗鬆症、認知障害などが非感染者に比べて多いとされている。また、一部の悪性腫瘍についてもリスクが高いとされている。HIV感染症は感染症や血液内科の専門医ではなく、プライマリケア医が担うべき疾患になりつつある。また、近年、HIV陽性者であっても挙児希望があれば妊娠、出産できる技術が発達してきた。両親のいずれかがHIV陽性者という児と接する機会も今後増えると予想され、HIV感染症に対する正しい知識が必要である。
 我が国における新規HIV感染者の多くは、男性と性行為をする男性(MSM)である。さまざまな社会資源が整備され、生命予後が改善された現在においても、HIV陽性者は生きづらさを抱えていることが多い。陽性であるということ以外にも、セクシャリティーのことなどで悩みを抱えていることが多い。また家族や職場に対しても告知できないことも多く、抱え込んでいるケースも多い。HIV感染者も非感染者も、ともに生きている時代であるという認識が必要である。
3)2013年の風疹流行の特徴と風疹排除への道
理化学研究所 新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター 加藤茂孝先生
1. 2013年の流行の特徴
 2013年の風疹流行で、7月17日現在12,832人の患者数が報告されている。この数は、2010年に報告数が87人まで下がって、最早日本から風疹が排除されるかと言う所まで来ていたことを考えると文字通り大流行である。
 先天性風疹症候群(CRS)の出生は、2012年 5例、2013年8例と2004年(10例)以降最多となり、2013年後半にCRSの出生数が更に増加する事が危惧されている。2013年の流行の際立った特徴として、成人、男性、職場(ほとんど大都会)の3つがある。
2. なぜ、このような特徴なのか?その歴史的背景
 なぜ、小児が流行の中心であった風疹が、成人男性を中心に流行しているのか?これは過去に日本がとってきた風疹ワクチンの接種政策の予期せぬ影響である。小児の流行は現行のMRワクチンの定期接種でほぼ無くなっているが、1977年から長く女子中学生のみに接種してきた影響で、中学生時代に接種を受けることなくまた自然感染を逃れた男性が今流行を担っている。
3. 世界の中の日本
 2012年のWHOへ報告された風疹患者数は、先進国(例えばOECD加盟34国)の中では、日本の風疹患者報告数(2392人)もCRS数も最多である。他の国の風疹患者は多い国でも100以下で、0の国も多い。日本はワクチン接種に関して途上国と言われても止むを得ない状況にある。
4. 風疹排除への道
 既に風疹排除に成功した途上国から学ぶべきことが多い。コスタリカやチリでは、現在の日本と同じように成人層に風疹が流行した時に、流行の中心である成人男性を一斉免疫した。その結果、風疹排除に成功している。
5. ACIPの必要性
 今回の流行の背景は、過去のワクチン政策がその場その場での問題解決と言う短期的な視野しかなかったことが原因の根底にある。総合的長期的なワクチン政策を集中的に議論するACIP(予防接種諮問委員会)様の機能が日本でも必要である。

大阪小児感染症研究会代表世話人 大薗恵一
                                    事務局担当世話人 岡田伸太郎、上田重晴

 
 
 TOPへ戻る大阪大学小児科

copyright2001-大阪大学大学院医学系研究科内科系臨床医学専攻情報統合医学小児科学All rights Reserved.