14:30-15:30 一般演題 |
@大阪市の麻しん、および発しん性ウイルス感染症の疫学的検査と麻しん輸入株についての考察 |
演者 廣川秀徹 先生(大阪市保健所 感染症対策課) |
【はじめに】大阪市では、麻しん排除計画の一環として、麻しん発生届が出た症例について確定診断するために麻しんPCR検査を実施している。陰性検体については、マルチプレックスリアルタイムPCR法(M-PCR法)による他の発しん性ウイルスの検索も行っている。今回我々は、これらの方法によって得られた発しん性ウイルスの発生動向、検出された麻しんウイルスの遺伝子型と輸入株について考察したので報告する。
【対象・方法】発生届を受け、検体を確保できた症例において、麻しんPCR、M-PCR法検査を実施した(平成24-26年の3年間、計188例)。
【結果】麻しん陽性は24年0例、25年2例、26年13例で、その遺伝子型はB3が8例、H1が4例、D8が3例であった。麻しん陰性、M-PCR法で風しん陽性であったものは24年31例、25年62例、26年0例であった。ほかヒトパルボウイルスB19が3例、ヒトヘルペスウイルス6型が5例、同7型が2例検出された。
【考察】麻しん陽性例の遺伝子型は、全て海外からの輸入株とされているものであったが、渡航歴のない症例も多くみられ、今後わが国の土着株とされる懸念が持たれる。また24-25年の風しんの大流行は、M-PCR法の結果にも反映されていた。MRワクチンT期U期の接種率の向上により、現代の麻しん、風しんの好発年齢は、小児ではなく若年成人となった。ともに感染症法5類全数報告疾患であり、内科のほか皮膚科等の診療科でも広く、発生届、PCR検査検体提出 ⇒ 麻しん確定診断かつ、積極的疫学調査による二次感染の防止対策をとることが重要であると考えられた。
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A当院で経験した小児のデング熱 |
演者 天羽清子 先生(大阪市立総合医療センター 小児救急科) |
デングウイルス(DV)はフラビウイルス属のRNAウイルスで、ネッタイシマカやヒトスジシマカにより媒介される。1950年代までは日本国内で発生報告があったが、それ以降は昨年(2014年)に代々木公園を中心とする流行がおこるまで国内発生認めず。流行地に仕事や旅行で渡航し帰国した成人を中心とする輸入感染症と位置づけられ、小児は稀である。当院で経験したデング熱の小児例を報告する。
症例1:6歳女児。フィリピン在住。日本に住む父に会うため帰国。前日から38℃の発熱と食欲低下あり。帰国翌日に近医で抗菌薬投与されるも解熱せず。帰国3日目の夜から躯幹部と両側前腕に発疹出現し当院受診。迅速検査にてDVIgM弱陽性、後にPCR法にてDV3型検出されデング熱と診断した。経過中軽度の血小板減少認めたが輸液のみで軽快した。
症例2:5歳男児。インドネシアバリ島で母がレストラン経営しており8日間バリ島滞在。帰国翌日に高熱と頭痛あり。翌々日も改善なく当院受診。迅速検査でDV NS-1抗原陽性、IgM陰性、IgG弱陽性。後にPCR法でDV2型検出されデング熱と診断した。鼻出血と軽度の血小板減少認めたが、輸液のみで軽快した。
デング熱の小児2症例を報告した。いずれの症例も旅行以外の滞在形態であり、小児の輸入感染症はVFR(Visiting Friends and Relatives)の場合はより疑って検査する必要があると考えられた。
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B大阪市における蚊媒介性病原ウイルスの遺伝子検出検査について |
演者 久保英幸 先生(大阪市立環境科学研究所) |
【はじめに】当所では、蚊媒介性病原ウイルス検査として、T:「動物由来感染症に関する病原体調査」において、定期的に採集した大阪市内生息雌蚊を対象としたウエストナイルウイルス(WNV)およびフラビウイルス属ウイルスに対する遺伝子検出検査を、また、U:デング熱疑の患者検体の病原ウイルス検査において、デングウイルス(DENV)およびチクングニアウイルス(CHIKV)に対する遺伝子検出検査を実施しているので、これらを以下に紹介する。
【検査方法】T:大阪市内10地点の公園等において、月1回(6〜10月)蚊を採集して採集雌蚊の地点別・種類別分類を行い、さらに分類された雌蚊(プール)ごとにRNAを抽出した後に、WNVおよびフラビウイルス属共通プライマーを用いたコンベンショナルRT-PCRを実施し、特異的遺伝子検出の有無の解析を行う。このうち、フラビウイルス属共通プライマーで検出可能となるおもな病原ウイルスは、WNV、DENV、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルスである。また、市内公園等で死亡が確認された野鳥の脳組織に対しても、同様の解析を行う。なお、本検査における蚊採集に関しては、大阪市保健所感染症対策課および大阪市健康局生活衛生課の協力を得て実施している。U:おもにサーベイランス定点医療機関を受診したデング熱疑患者血清からRNAを抽出し、DENVならびにCHIKVに対するリアルタイムRT-PCRを実施し、上記同様の解析を行う。なお、DENVおよびCHIVの検査に関しては、平成27年4月から新たに予防指針が適用される模様である。
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15:45-16:45 特別講演 |
顧みられない熱帯病、デング熱 |
演者 奥野良信 先生(一般財団法人 阪大微生物病研究会観音寺研究所 所長) |
昨年(2014年)の8月、熱帯病と考えられていたデング熱が東京で発生し、大きな社会問題となった。戦後初めての流行で、患者総数は162例に上った。因みに、終戦直前には西日本で大流行し、百万人以上が罹患したといわれている。世界中での発生数は、年間で5千万人から5億人と推測され、熱帯地方ではありふれた疾患のため“熱帯のかぜ”とも呼ばれている。一般的に症状は軽いが、一部の患者は重症化し、“デング出血熱”あるいは“デングショック症候群”に陥ると致命率が高くなる。
デングウイルスが原因ウイルスで、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルスなどと同じフラビウイルスに属する。これらフラビウイルス間には強い交差免疫原性があり、これが血清学的診断を困難にしている。デングウイルスには1型〜4型の4種類の血清型があり、初感染の型と違う別の型に再感染することが重症化の要因と考えられている。ワクチンの開発を困難にしているのも、これが一つの理由である。デングウイルスは主にネッタイシマカによって媒介され、ヒト−蚊−ヒトのサイクルで維持されている。温帯地方ではヒトスジシマカが媒介蚊となる。
デング熱の潜伏期間は3〜14日であるが、多くは4〜7日である。典型的な症状は、突然の発熱、頭痛(眼球後部の痛み)、筋肉痛、関節痛、発疹である。発熱は40℃を超えることもあり、二峰性になることが特徴である。経過は2−7日であり、回復期に強い掻痒感と徐脈がしばしば起こる。デング出血熱の多くは東南アジアの小児に起こり、出血傾向、循環不全、肝腫大が特徴である。血小板数減少と血液濃縮は必至である。
病初期のウイルス分離、もしくはPCRが最も確実な診断法である。しかし、これらの方法は一般的ではなく、最近では各種迅速診断キットが市販されているので、臨床現場では有用である。特異的な治療法はないが、デング出血熱の場合には補液が重要である。ワクチンはまだない。
演者は過去にタイ、インドネシアにおいてデング熱、デング出血熱の研究に携わったことがあり、そのときの経験を踏まえてデングウイルス感染症の実態について解説する。 |
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