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2015年秋の講演会のお知らせ  <2015.8更新>

 第21回講演会を、下記の要領にて開催いたします。
 特別講演といたしましては、昨今、日本のみならず世界規模でその出現と蔓延が危惧されている「薬剤耐性菌」について、大阪大学医学部附属病院 感染制御部の朝野和典先生にお話しいただきます。また一般演題の発表も、3題予定しております。どうかご期待ください。
 会員の方々には間もなく、講演会のご案内を郵送します。会費や参加費は無料です。会員以外の方々も、どうか多数ご出席くださいますようお願いいたします。 

 本講演会の担当世話人は、大阪大学医学部附属病院の吉田寿雄先生、大阪府立急性期・総合医療センターの高野智子先生です。

出欠は、次の2つのどれかでご返事ください。
a. 郵送するご案内に同封の「FAX出欠回答用紙」に記入の上、事務局あてFAXする。
b. 氏名と所属を明らかにして「kansen@ped.med.osaka-u.ac.j」へ出欠を電子メールで知らせる。



<<講演会>>

日時:平成27年10月10日(土)14:10〜16:50

場所: 大阪大学中之島センター10F 佐治敬三メモリアルホール

〒530-0005 大阪市北区中之島4-3-53(Tel:06-6444-2100; Fax:06-6444-2338)
京阪電車 中之島線 中之島駅または渡辺橋駅下車徒歩5分
大阪市バス 53系統 船津橋ゆき 中之島4丁目下車すぐ


<<講演要旨>>

14:30-15:30  一般演題

@ESBL産生大腸菌による小児尿路感染症の2例

演者 川村孝治 先生(市立伊丹病院 小児科)

【症例@】3か月男児【主訴】発熱【現病歴】入院前日より39℃を超える発熱が出現。尿検査で白血球100/HPF、細菌3+を認め尿路感染症の疑いで加療目的に入院となった。【入院経過】入院時腎エコー検査は異常なし。セフォタキシム(CTX)点滴にて加療開始。3日目に解熱したが、尿培養よりESBL産生Escherichia coliを検出。感受性に従い抗生剤をセフメタゾール(CMZ)に変更した。その後、炎症反応の低下・尿所見の改善を確認し、抗生剤はST合剤に変更して退院とした。
【症例A】2か月男児【主訴】発熱【現病歴】入院数日前より少しぐずぐずしていた。入院当日、39℃台の発熱を認め急病センターから当科に紹介となった。血液検査でWBC 12900/μl、CRP 4.85mg/dlと高値を認め精査加療目的に入院となった。【入院経過】CTXとアンピシリン(ABPC)点滴にて加療を開始。4日目に尿培養からESBL産生E.coliが検出され、感受性に従い抗生剤をCMZに変更。その後炎症所見は改善し退院。退院5日後、尿路感染症が再発し再入院。CMZで加療開始、尿培養からはESBL産生E.coliが検出された。炎症所見はすぐに改善し、ST合剤内服に変更して退院。退院8日後、発熱にて再々入院。尿培養から再度ESBL産生E.coliを検出した。造影CT検査や排尿時膀胱尿道造影検査(VCUG)では異常所見を認めなかった。炎症所見改善後、ホスホマイシン(FOM)内服に変更。以後、FOM予防内服を行っているが、再燃はみとめていない。
ESBLとは基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase)の略称で、第3世代セフェムを含むβラクタム環を持つ抗生物質を分解する酵素である。近年院内感染、市中感染にかかわらず様々な感染症領域で多剤耐性菌の増加が問題となっている。小児科領域においても、ESBL産生菌による尿路感染症(urinary tract infection;UTI)の報告が増えてきており、E.coliの薬剤耐性化が問題となっている。
今回、当科で最近経験したESBL産生大腸菌によるUTIの2症例を紹介し、文献的考察を交えながら報告する。

 

A耐性皮膚常在菌による菌血症の3症例
演者 高野智子 先生(大阪府立急性期・総合医療センター 小児科)

末梢輸液を2週間以上継続した症例で3例の皮膚常在菌による菌血症を経験したので報告する。
【症例1】5歳女児。母児感染によるB型慢性肝炎のため、インターフェロン治療中に肝炎が強くなったため入院した。強力ミノファーゲン治療開始2週間後、発熱、点滴刺入部の発赤を認め、血液培養からβラクタマーゼ産生黄色ブドウ球菌が検出された。SBT/ABPC投与により軽快した。点滴の漏れがなかったために2週留置した末梢ルートがフォーカスと考えられた菌血症であった。
【症例2】13歳男児。1年前より潰瘍性大腸炎のため、PSL、免疫調整薬、メサラジン、サラゾピリンなどで治療受けていた。2回目の再発のため治療していたが、薬剤によると考えられる急性膵炎のため入院した。急性膵炎の治療を行い、軽快してきたためSBT/CPZなどを中止した。その6日後に発熱し、血液培養よりMRCNSが検出された。SBT/ABPCでは解熱せず、MEPNを追加投与し、軽快した。PSLなどいくつかの免疫抑制剤を使用している症例で2週間の抹消ルート留置後に菌血症を来した。
【症例3】9歳女児。アレルギー性紫斑病の腹痛症状のために入院し、PSL治療を開始した。治療開始20日目に発熱、血液培養より、MRCNSとAcinetobactor baumanniが検出された。発熱翌日には痙攣出現、血小板減少、血圧低下を認め、敗血症性ショックを来した。SBT/ABPCでは解熱せず、MEPNを追加し徐々に軽快した。アレルギー性紫斑病の腹部症状に対するPSLの点滴投与3週間目に敗血症を来した。フォーカスは皮膚または腸管からのtranslocationが考えられた。

【まとめ】長期間末梢輸液ルートを留置する場合やPSLなどの免疫抑制剤を使用する場合は、皮膚常在菌による菌血症に注意が必要である。

 

B当院におけるCREアウトブレイクの経験
演者 多和昭雄 先生(国立病院機構大阪医療センター)

 当院においては、2010年7月に最初のカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)が検出された。それ以後、感染制御チーム(ICT)を中心とした院内感染対策にも関わらずCREが検出され続けたため、2014年1月、大阪大学医学部附属病院感染制御部の支援を仰ぐこととした。さらに、大阪市保健所に報告し、保健所を通じて国立感染症研究所疫学チーム(FETP)の調査を受け、同時に、外部調査委員会を設置、2014年3月20日に記者会見を行い、本事例を公表した。
 公表に先立って、CRE対策の司令塔として、病院幹部7名からなるMBLs対策プロジェクトチームを立ち上げ、ICTとともに感染対策を実施していった。
 院内水平伝播の要因に対する対策として、保菌者も含め分離陽性患者の全例個室またはコホート管理での接触感染予防策の実施、ベッドパンウオッシャーの導入、経腸栄養、腸瘻の管理手順の見直し、透視室・内視鏡室の整備をおこなった。さらに、院内のCRE陽性者を、一つの病棟にコホートしての対策も4.5か月にわたり実施した。同時に、感染対策に関する職員教育を行うとともに、入院患者全員に対する入退院スクリーニングを実施し、積極的な患者発掘を行った。
 その結果、スクリーニングで月1-2名の陽性者は出るが、2015年1月27日以降、臨床検体からCREは検出されなくなり、スクリーニング検査の継続、感染対策の徹底を条件に、2015年5月21日外部委員会は第4回で終了となった。 院内的にも、アウトブレイク状態は脱したと考え、MBLsプロジェクトチームは7月8日に解散した。
 CREは、診断、治療が難しいだけではなく、いったん病院内で広がると感染対策が極めて難しい耐性菌であることをから、薬剤感受性のパターンからCREを疑うことで患者の発生を早期に察知し、病院全体で感染対策に取り組み院内での水平伝播を防ぐことが重要であると考える。

 

15:45-16:45  特別講演

21世紀の薬剤耐性菌の変貌

演者 朝野和典 先生(大阪大学医学部附属病院 感染制御部)

 薬剤耐性菌というと、昔からあったし、困った問題ではあるが、臨床において決定的な問題とはなりえない、と考えられていた。しかし、実はそのような考え方は20世紀までの考え方であり、21世紀の今、その考え方を改めなければならないということが鮮明になってきている。一言でいえば、異次元の耐性菌が広がりつつある。その代表的な細菌がカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)である。CREの特徴は、菌種、菌株間を越えて耐性遺伝子が行き来することである。そのため、これまでの同一菌種による感染症という概念では認知できない感染症が広がっている。
 CREの代表であるNDM(ニューデリーメタロβ-ラクタマーゼ)-1型カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌は、その名の通り、インド、パキスタンから世界中に、最初はメディカル・ツーリズムの患者を介して広がっていった。インド、パキスタンではありふれた市中感染の原因菌となっている。すなわち、ありふれた市中感染で致死的となる可能性が出てきたのである。このような状況をWHOはPost-Antibiotic Era(ポスト抗菌薬時代)と呼称し、ささいなケガでも死に至るような抗菌薬以前の時代に逆戻りすると警鐘を鳴らしている。
 輸入感染症といえば、デングやマラリアなどを思い浮かべるが、今日超多剤耐性菌も仲間入りしている。いくつかの医療機関において海外で医療を受けた日本人が超多剤耐性菌の保菌状態で帰国し、小さな院内感染を広げたと報告されている。デングやマラリアに比べると多剤耐性菌の保菌は直接の症状が現れないために、より気づくのが困難であり、気づいたときには院内感染が起こっているということになる。したがって、海外で医療を受けた患者が受診してきた場合には、超多剤耐性菌の保菌を疑い、検査結果が出るまでは対処すべきである。
 超多剤耐性菌は海外に多くの種類があるものの、日本固有の耐性菌も存在する。これがCREの一種であるIMP型メタロβ-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌であり、一般病棟ばかりではなく、NICUにおいても院内感染が起こっている。
 21世紀の新しいステージとなった耐性菌に対しては、まずその正体を知ること、それからそれに備える体制を整備すること、そしてあきらめないで駆逐することが重要である。日本は超多剤耐性菌の少ない状況を維持している、多くの世界の国々はこれら耐性菌が常在化している。日本もそうなるのか、諦めずに駆逐し続けるのか、重大な岐路に立たされている。Post-Antibiotic Eraを甘受するのか、多少費用がかかっても戦い続けるのか、あなたはどちらを選ぶだろう?

 



当研究会は「日本小児科学会専門医制度・研修集会単位」として3単位」取得できます入場の際、ご希望の方に「参加証(3単位)」を差し上げております。

ご不明の点があれば当研究会事務局「kansen@ped.med.osaka-u.ac.jp」あてに電子メールでお問い合わせください。

 


大阪小児感染症研究会代表世話人 大薗恵一
                                    事務局担当世話人 塩見正司、山本威久

 
 

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